BACKSIDE (バックサイド)

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https://backside.jp/swatch-nines-creators-cabin/
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FEATURE

羊蹄山の魔法がかかるフリースタイルの未来。「SWATCH NINES」がニセコで起こす変革の全貌

2026.03.06

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2026年4月、日本のフリースタイルシーンにとって確実に転換点となるイベントが訪れる。
 
世界中のスノーボーダー、スキーヤーが注目し、その独創性で業界の最前線を走り続けてきたイベント「SWATCH NINES」が、ついにアジア初上陸を果たす。舞台は世界屈指のパウダースノーリゾート、ニセコ東急 グラン・ヒラフ(以下、グラン・ヒラフ)だ。
 
筆者は2025年10月下旬、このビッグプロジェクトが動き出す、その最初の現場に立ち会うため、グラン・ヒラフで行われたワークショップ「SWATCH NINES CREATOR’S CABIN」に帯同した。ホテル「綾ニセコ」のペントハウスに掲げられた図面、ライダーたちの真剣な眼差し、交わされる濃密な議論。プロスノーボーダーの平野海祝、大塚健、湧嶋弓流(クール・ワクシマ)、プロスケートボーダーの藤井雪凛らが、未来の“芸術的パーク”を描こうとしていた。
 
開催まで残りおよそ1ヶ月。本記事では「THE NINES AG」CEOのニコ・ザチェック、そしてこのプロジェクトを受け入れたグラン・ヒラフの主要メンバーに独占インタビューを敢行した。なぜ今、ニセコなのか。そして、このイベントが日本のスノーカルチャーに何をもたらすのか。その核心に迫る。

羊蹄山の“魔法”と、アルプスが認めたニセコのポテンシャル

SWATCH NINESといえば、単なるイベントの枠組みを超えた、巨大かつ芸術的なパークセクションが象徴だ。その舞台選びにおいて、THE NINES AGは一切の妥協を許さない。
 
「すべては、日本の小さなエージェンシー『THE SMALL THINGS』のビジョンから始まった」と、ニコはこのプロジェクトの全貌を語り始めた。
 
「彼らはSWATCH NINESのコンセプトに深く共鳴してくれた。札幌の『まちのミライ』とともに北海道のいくつかのリゾートを巡ったが、グラン・ヒラフに到着した瞬間、ここがベストだと確信したんだ。4月でも大量の雪が残っていることは、巨大セクションを造るうえで不可欠だからね」
 
当初は懸念もあったという。
 
「アルプスの山々を見て育った私にとって、ニセコは平坦で木が多く、雪を集めるための開けたスペースが少ないと感じた。迫力に欠けるのではないか。当初は少し不安もあったよ。でも、決定打はやはり、羊蹄山の“魔法”だよ」
 

羊蹄山をバックにNINESクルーはミーティングを重ねた

 
ニコが語る「魔法」とは、単なる景観ではない。朝夕に表情を変えるあの独立峰の姿は、ライダーのインスピレーションを刺激し、映像に圧倒的なドラマをもたらす。
 
「日本の独特な景観と美しい木々、そして背景にそびえる羊蹄山が、不安を完全に吹き飛ばしてくれた。このロケーションこそが、今回のイベントを特別なものにする。『このイベントは間違いなく成功する』と確信したよ」
 
その確信をさらに強固なものにしたのが、10月のワークショップだ。
 

“芸術的パーク”を生み出すために行われたワークショップ

 
「トップライダーたちを集め、『どんなアイテムを滑りたいか』と自由に想像させると、とてつもない創造性が溢れ出す。海祝や弓流たちは、『日本でやるならトランジションとビッグエアが必要だ』と強調していた。普段、彼らはライディングに集中しているから、コース設計まで考える時間は少ない。だが、あの日は違った。彼らの得意とするスタイルが、今回のセットアップには色濃く反映されているよ」
 

海祝と弓流(手前)は積極的に意見を発していた

 

「ニセコ=パウダー」という常識を覆す、リゾート側の鋼の意志

この「世界最高峰のクリエイティビティ」を受け入れるリゾート側の覚悟も、また並大抵ではない。招致の裏側には、グラン・ヒラフが抱く、ある種の“逆襲”に近い情熱があった。
 
「私たちが招致に向けて動き出したのは、2024年9月の基本合意のニュースを見た直後です」と語るのは、東急不動産リゾート事業部の宮田佳祐氏と、現場を指揮するグラン・ヒラフの長畑秋雄氏だ。
 

ロケハンに参加する宮田氏

 
彼らの瞳にあるのは、ただの集客への期待ではない。「このイベントを、絶対にほかのリゾートに渡してはならない」という強い意志だった。
 
「基本合意のニュースを知り、改めて過去大会の映像を観たとき、私たちの頭には『羊蹄山をバックに空を舞うライダーたち』のイメージが明確に浮かびました。グラン・ヒラフのブランドを、グローバルで一段上のステージへ押し上げるために、これ以上のイベントはありません。NINESの独創的なパークを造成することは、雪上車チームにとってもディガーチームにとっても大きな挑戦ですが、みな、この挑戦を楽しみたいと考えています」
 

季節外れの大雪に見舞われながら、グラン・ヒラフのスタッフを中心にロケハンが行われた

 
近年、ニセコは「外国人観光客のためのリゾート」と形容されることが多い。しかし、今回の招致には、日本のシーンに対する明確なメッセージが込められている。
 
「ニセコはパウダーだけではありません。かつて北海道がハーフパイプの聖地として世界を席巻したように、フリースタイルでも世界を驚かせることができる。本州のパークシーンに負けない熱量を、もう一度この地から発信したいのです。そして何より、地元の子供たちに伝えたい。グラン・ヒラフのある倶知安町は1972年に『スキーの町宣言』をしていますが、学校の授業でしかスキーやスノーボードをしない子供たちが少なくありません。自分たちの住む場所が、ミラノ・コルティナ五輪で活躍したような世界中のトップライダーたちが集まる、最高にクールな場所なんだということを感じてほしいのです」

渋谷のストリート魂と、100億円の巨大投資

なぜ、グラン・ヒラフはこれほどまでに本気なのか。その答えは、彼らのバックグラウンドにある。
 
「私たちは渋谷を本拠地とするグループ。渋谷はストリートカルチャーの聖地です。東急不動産ホールディングスとしてブレイキンをスポンサードするなど、アーバンスポーツやアクションスポーツに対して非常に積極的なのです」
 
現在、グラン・ヒラフでは2030年に向けた大規模投資「Value Up Niseko road to 2030」が進行中であり、その規模は2024~2026年の3年間で100億円を超える。リフト、ゴンドラ、レストランといったインフラの進化は、SWATCH NINESという世界的なパッケージを完璧に受け入れるための布石でもあった。
 

昨シーズン架け替えられた最新式の「エースゴンドラ」も、その投資のひとつ

 
「SWATCH NINESはパークセッションだけではありません。夜のパーティーやアプレまで含めたひとつのライフスタイルイベントです。私たちが投資してきた施設を最大限に活かしたい。このイベントの魅力を引き出せるのは、ここしかないと確信しています」
 
そして改めて、ニコが惚れ込んだロケーションが唯一無二であることを強調する。
 
「グラン・ヒラフはニセコユナイテッドの中で唯一、羊蹄山に正対したゲレンデなので、必然的にパークで撮られる映像には羊蹄山が大きく映り込むことになるでしょう。海外のスノーリゾートは山脈や氷河にあるものがほとんどですから、単独峰を望んで滑るようなロケーションは日本の限られた場所にしかないものです。このロケーションが、SWATCH NINESの独創性をさらに引き立てると考えています」

一般観覧も可能、伝説の目撃者になれ

最後に、ニコからBACKSIDEの読者へ熱いメッセージが送られた。
 
「このイベントを18年間続けてきたが、日本で開催することは長年の夢だった。私たちは常にスポーツへの愛のために動いている。4月11日のパブリック・デーには、ぜひ会場に来てほしい。世界最高峰のライダーたちが、羊蹄山をバックに歴史を作る。それは間違いなく、忘れられないショーになるはずだから」
 

健&海祝とアイテムのアイデアを創造するニコ(右)

 
かつてのスノーボードシーンがそうであったように、また新しい波が、このグラン・ヒラフの山から世界へと広がりを見せようとしている。評価も順位もない。あるのは、創造性だけだ。
 
日本のスノーボードの歴史に、新たな一ページが刻まれる瞬間まで、あとわずか。2026年4月、僕たちはその伝説の目撃者となる。
 
「SWATCH NINES」概要
▷開催地: ニセコ東急 グラン・ヒラフ
▷開催日: 2026年4月6日(月)〜11日(土)
▷一般公開日: 2026年4月11日(土)
▷参加ライダー(予定): 平野海祝、大塚健、湧嶋弓流、藤井雪凛、ほか

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: SWATCH NINES

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