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【連載Vol.1】宿泊難民を救う新たなスタイル「長野駅前ステイ」。斑尾高原とTravel HUB Nagano Cityが描く、新たなスノーハブ構想
2026.02.20
この「宿がないからトリップを諦める」という閉塞感を打破すべく、BACKSIDEが今シーズン提案したいのが、リゾートにほど近い都市部を拠点にパウダースノーを追いかける「都市型パウダーハント」だ。長野市をはじめ、斑尾マウンテンリゾートがいち早く着目したこの新たな導線が、これからのスノーボードを劇的に自由にする。
「毎朝50分のパウダー通勤」。斑尾高原と長野市を繋ぐ、20年越しのインフラ
斑尾マウンテンリゾートの営業戦略部ディレクター、小林翔氏は自らこのスタイルを体現するひとりである。彼は現在、長野市内に住まいを構え、そこから毎日斑尾へと「通勤」している。
「自分の家から職場である斑尾まで、毎朝車で50分程度。実は長野駅周辺に泊まって斑尾へ滑りに来るという導線は、物理的にも時間的にも、驚くほどストレスがないんです」と小林氏は語る。

ゲレンデの「中の人」でありながら、自身も熱心なスノーボーダーである小林氏(写真中央)。YoutubeやSNSで彼を見かけたことがある方も多いのでは?
photo: Yuto Nishimura
ほどよく水分が抜けたドライパウダー、通称「マダパウ」や、起伏に富んでおりフリースタイルに楽しめる、日本屈指のツリーランエリア「SAWA」を擁する斑尾は、毎年来場者数を順調に増やしているが、その人気ゆえに宿泊キャパシティの不足という課題を抱えてきた。
「ただゲレンデ近くの宿泊施設に泊まれないというのは、もはや斑尾単体の問題ではなく、長野県としての問題です。我々はいち早くこの問題に取り組み、より持続的に、日本の雪山をみなさんに楽しんでほしいと考えています」という小林氏の言葉には、危機感を乗り越えた先の、新しいスノーカルチャーへの期待が感じとれる。だからこそ「山に泊まる」という固定観念を外し、都市をベースキャンプに据えることで、より持続的で自由な雪山の楽しみ方が見えてくるのだ。

大小様々な“うねり”がゲレンデに点在している斑尾。そこに大量のパウダースノーが降るのだから、パウダーハントも地形遊びも思うがままに楽しめる
photo: Gaku Harada
この「都市型パウダーハント」を支えているのが、1998年の長野オリンピックのために建設された強固なインフラだ。当時、長野市を起点に白馬方面へ繋がる道路、通称「オリンピック道路」や、都心部から向かうスノーボーダーには馴染み深い上信越自動車道の整備が行われていた。白馬、志賀高原、野沢温泉、そして妙高や斑尾。長野市からこれらのエリアへ伸びるアクセス網こそが、今、最強の武器となっている。20年以上の時を経て、オリンピックの遺産は現代のパウダーハントを支えるスノーハブとしての価値を再燃させようと奮闘している。麓の宿に縛られる必要はない。長野駅前からあらゆるピークへ繋がるラインは、すでに整備されていたのだ。
「Travel HUB Nagano City」──ライブカメラと交流が、最高のラインを引き寄せる
「レンタカーを借りて長野市内のホテルに泊まって各スノーリゾートに行くっていう人たちは、実は海外の人も含めてちらほらいたんです。これをもっと取り込んでいきたい。長野駅からなら、どこへ行くのも理にかなっているんです」
そして「都市型パウダーハント」という思想を具現化させた施設「Travel HUB Nagano City」が、25年12月に長野駅前に誕生。共同設立者のひとり、安養壌氏は、白馬の老舗ホテルの息子として育ち、長年インバウンドビジネスの最前線で活動してきた。
「僕たちが作りたかったのは、単なる案内所ではありません。スノーボーダーやスキーヤーが抱える小さなストレスをすべて解消する『雪山の駆け込み寺』のような場所です」と安養氏は語る。

長野駅から徒歩2分の好立地。近隣にはホテルや飲食店も立ち並んでいるので、ナイトライフが楽しみやすいのも長野駅ステイのメリット
施設に足を踏み入れれば、まずはモニターに映し出された9枚のライブカメラ映像が目に飛び込んでくる。近隣の各エリアの降雪状況がリアルタイムで、並列に可視化されているのだ。「ライブカメラが常に映っていて、そこで今のコンディションが見れる。みんなでそれを見ながら『明日はどこ行こうか』って、その場でグラス片手にワイワイするのって最高じゃないですか?」と安養氏が言うとおり、ここはパウダースノーへの期待や興奮をフィジカルに共有できる場所なのだ。

スクリーン上で降雪状況をリアルタイムかつ並列的に見ることができる。日常の合間に山に訪れるビジターにとっては、パウダーチャンスは限られている。ぜひこういった施設を有効活用してほしい
小林氏とはインバウンドビジネスの現場で出会い、この都市型パウダーハント構想についてすぐに意気投合したという。故にゲレンデとの連携も進んでおり、ここでは斑尾マウンテンパス(斑尾高原と、隣接するタングラムスキーサーカスの共通券)をはじめとして、白馬バレー共通券などのICリフト券が購入可能。引き換えのために朝ゲレンデの窓口に並ぶ必要はなく、その場で購入し、翌日ゲレンデで使用することが可能だ。
さらにレンタルにはMOSS(モス)やJONES(ジョーンズ)のパウダーボードといったハイエンドなギアが並び、ビジネスホテルでは不可能なウエアやブーツの乾燥預かりサービスも完備している。

パウダーボードを持っていなくとも、手ぶらで最高のコンディションに突っ込める。最新の情報と調子のいいギアを揃えて、翌日のパウダーハントに備えよう
夜になれば、バーカウンターには国内外の滑り手が混ざり合い、ビールを片手に明日の作戦会議が始まるような場所を目指しているそうだ。「旅を深めるのは人との出会い」と語る安養氏の言葉どおり、ここは最高のラインを引き寄せるための、前夜祭が始まる場所。ドカ雪の翌日はお気に入りのラインがあるあの山へ、少し降雪が落ち着いているなら雪が生きているあの斜面へ、風が吹いている日はあのゲレンデへ。長野駅を拠点にすることで、特定の山の麓に縛られない自由を手に入れることができる。現場を知り尽くしたふたりが共鳴して始まったこの試みは、宿泊難という逆境を逆手にとり、スノーボードトリップに新しい楽しみ方をもたらしている。

降雪予報に加えて、長野の日本酒やクラフトビールに軽いおつまみが前夜祭を盛り上げてくれる
長野駅前にステイし、夜は長野駅近辺の豊かな飲食店を楽しみながら、「Travel HUB」で情報を得て山へ向かう。この流れは、もはや単なる代替案ではなく、大人のスノーボードトリップの醍醐味を詰め込んだ贅沢な導線だ。宿泊の壁で斑尾をはじめとした北信エリアへのトリップを諦めていた人たちにこそ、この自由を味わってほしい。そこには、最高のパウダーはもちろん、「自分でコンディションを読み、当てた!」という快感も待っているはずだ。

自ら調べ、考え、ベストコンディションを当てることができれば、パウダーライディングの快感もひとしおだ
photo: Gaku Harada
では、実際に長野を拠点にしたとき、どのようにして「その日のベストな山」を選べばいいのか。本連載Vol.2では、「横乗り系気象予報士」の唐澤氏をゲストに迎え、北信エリアの雪の降り方を徹底解剖する。どのような気象予報の際に、どのエリアを果たして狙うべきなのか。実践的なパウダーハント術を伝授しよう。
text: Yuto Nishimura
eye-catching photo: Gaku Harada
rider: Takahiro Tsukada
photos: Travel HUB Nagano City




