BACKSIDE (バックサイド)

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FEATURE

Salomonが誇る名機の系譜を受け継ぐ、新たなボードが誕生。フリーライドの“気持ちよさ”を追求した日本発「HPS-KODO」

2026.02.09

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Salomon(サロモン)のHILLSIDE PROJECT SERIES(以下、HPS)。チームライダーたちが求める理想の滑りを具現化するため、ヴォレ・ニベルトがプロダクトデザイナー兼クラフトマンとしてボード製作に関わるシリーズだ。
 
プロジェクトが始動して15年。これまでに様々なライダーの要望を反映したボードが生まれてきた。なかでも中井孝治が手掛けたHPS-TAKAHARU NAKAI(以下、HPS-TAKA)、HPS-TAKAHARU NAKAI EP(以下、EP)は、「HPS」という名前を日本に広めた名機と言っても過言ではなく、多くのパウダーラバーやフリーライド愛好家、そしてマウンテンフリースタイラーに愛され続けてきた。
 
その中井は新たな挑戦のためSalomonを離れたが、彼の意志やマインドはしっかりと受け継がれ、日本発の新たな「HPS-KODO」が誕生。その開発に携わった吉田啓介、高橋福樹、藤本広海の3人のライダーに話を聞いた。

「バックカントリーで自由かつ欲張りに遊べる」──吉田啓介

10代の頃はハーフパイプ競技に注力し、20代に入ってから中井に誘われてバックカントリーでの撮影活動へとシフトした吉田啓介。師とも言える存在の中井とは、幾度となくともに山奥へ入り、山での判断やラインどりなど数え切れない経験を学んできた。そうした経験を積み重ね、今や日本屈指のマウンテンフリースタイラーとして、Salomonチームを牽引する存在にまで成長を遂げている。
 

吉田啓介

 
そんな吉田が開発ライダーのひとりとして携わったボードが、2026-27シーズンからラインナップに加わるHPS-KODOである。
 
「中井くんの手掛けてきたボードが、高い評価を得てきた功績があったからこそ、こうやって自分たち世代の日本人ライダーが新たなボードを作るチャンスをもらえたと思ってます。もちろんプレッシャーはありました。けど、僕たちが乗りたいボードを作るだけじゃなく、HPSのジャパンラインを作り続ける。それを次の世代に繋げていく。その責任があるなって思いました」
 
吉田が目指したのは、現時点で彼が映像で表現しているマウンテンフリースタイルに適したボード。具体的には、バックカントリーをメインに、パウダーでもフリースタイルなアクションを繰り出しやすいモデルだ。
 
「地形に合わせてトリックも入れられるけど、軸はあくまでフリーライド。テストしたのが北海道っていうこともあって、ディープパウダーでも浮力と推進力があって、緩斜面でも遊べるボードになればいいなと思ってました」
 

安定感あふれるパウターンはHPS-KODOの賜物

 
吉田自身、これまでHPS-TAKAやEPに乗ってきた経験がある。それらの影響を受けつつも、よりスピード感と地形遊びの自由度を高めた設計を希望したそうだ。
 
「パウダーだろうが圧雪だろうが、スピードが出るボード。そのほうが拾える地形も遊び方も増えるし、ラインも自由に選べる。だから、推進力っていう点にはこだわりました。なので、雪の抵抗をできるだけ抑える設計にしてもらいました。ただ、やっぱり飛んだりもしたいのでフラットに近いけどキャンバーも薄く入れてもらってます」
 
今季リリースした佐藤秀平との映像作品『北門』の中で吉田は、すでにKODOのサンプルボードに乗っていた。
 
「メインで乗ってたのは160。ただ、その長さのわりに、めっちゃ曲がるんですよ。タイトなツリーランもめちゃくちゃ楽しいです。EPはガッチリと踏み込んで力を溜めて……って感じだけど、KODOは少ない力でも動いてくれる。サーフィンでいうところのアップスダウンみたいな動き。迂回路とかの壁地形も、いつもより多く拾えるイメージがあります。そのあたりはサイドカーブだったり不等厚だったりが作用しているのかな?」
 

ボードの長さを感じさせない優雅なライディング

 
ちょっと自信なさげに語るのは、吉田にとってボード開発が初体験だったためだ。
 
「僕と(高橋)モトキだけだったら、まったく別のボードになってたかも?(笑)。そこは中井くんのボードを裏で支えていたヒロ(藤本広海)くんが、いろいろ調整してくれたんです。これまでは自分のスキルアップばかりにフォーカスしてたけど、ボード開発に携わったことで、山やコンディションに合わせたボード選びや、ボードの特性に合わせた滑りも意識するようになったんで、本当に面白い経験ができたと思います」
 
ちなみに「鼓動」というモデル名も吉田の発案らしく、「ドロップ前の高ぶる感じとか、これから滑る斜面を想像してワクワクする感じとか、これからスタートするっていう感じが出せたんじゃないかなって思ってます。まぁ、それは後づけなんですけどね(笑)」


「乗っているだけで気持ちいいボードを」──高橋福樹

ハーフパイプの競技シーンを経たのち、フィールドを問わず自由奔放なスノーボーディングに明け暮れてきた高橋福樹。現在は、YouTubeの連載シリーズ『いらっしゃいませ、おじゃまします』、通称“いらおじゃ”で、中井とともに全国のゲレンデを巡り、身近なフィールドで滑りの面白さを伝えている。ここでは、リゾートライディングという視点からKODOの魅力を聞いた。
 

高橋福樹

 
高橋がKODOにどんな性能を求めたのか。その答えは非常にシンプルで、「乗っているだけで気持ちいいボード」だった。
 
「日本の雪や地形で気持ちよく走るボードにしたかったし、自分たちが本当に乗りたいボードをSalomonに残したいという想いがありました。さらに言えば、中井くんが作ってきたボードがあったから視野が広がったというのもあって、そこに対するリスペクトもすごくありました。だからこそ、中井くんのボードをずっと裏で支えてきたヒロ(藤本広海)くんがいてくれたのは大きかったですね」
 
ゲレンデというフィールドは、ただ整備されたバーンが広がっているだけではない。よく目を凝らせば、実は至るところに無数の起伏があり、ちょっとしたアクションを繰り出せる地形がそこかしこに存在している。
 
「『いらおじゃ』では、地形を使ったターンだったり、滑りながらちょっとしたアクションを織り交ぜたり、“すごいこと”じゃなくて“マネしたくなる”、何より“楽しそう”って思ってもらえる滑りを意識しています」
 

マネしたくなるようなライディングの楽しさを、HPS-KODOがさらに演出

 
『いらおじゃ』で魅せる高橋のカービングは、デモンストレーションや競技に寄ったものではない。あくまでフリースタイルの延長線上にあり、いつでも遊びに転じることができるターンである。
 
「KODOは、EPに近いフィーリングを持ちながら、まったくの別物です。ターンの終わりまでテールが使えるし、ノーズからテールまで全部を使って滑れる感覚が最高に気持ちいい。しかも、低速でも高速でも、カービングからちょっとしたアクションまでスムースにこなせる。そのバランスが絶妙なんです」
 
開発過程で、高橋はサイドカーブやテールの抜け感に関して調整を訴えた。その結果、ズラしやすさ、引っかかりのなさ、長さを感じさせない操作性を備えるボードに仕上がり、それがゲレンデで感じる「気持ちよさ」に直結しているのだ。
 
「最初はフラットキャンバーをイメージしてたんですけど、結果的にはほんのりキャンバーが入りました。やっぱりフリースタイルにも遊びたいから。でも、この“ほぼゼロ”のキャンバーの感じが、低速から高速まで気持ちよく滑れる理由のひとつにもなっていると思います」
 
高橋自身は160をメインに愛用しながら、コンディション次第で167に乗ることもある。「160でも短く感じるときもあるし、167でも取り回しにストレスがありません」とのことだが、これは近年のプロダクトデザインの進化により、「長い=扱いづらい」という感覚はすでに過去のものになりつつある結果だろう。
 
「上の世代の方たちにも自信を持って勧められるし、フリースタイルからフリーライドへと視野を広げたい若い世代のスノーボーダーにとっても、KODOは、確かな入り口となる一本になると思います。そのためにも、乗るだけで楽しい──その感覚を大事にしたんです」
 

長さを感じさせない操作感が気持ちよさを生み出す

 
フリーライドの世界にのめり込む最初の一歩を、KODOは迷いなく後押ししてくれる。
 
「ボード開発に携わったことで、今まで実はボードのことを“わかっているつもりだった”って思い知らされました(笑)。ほんの少しスペックを変えるだけで、こんなにも乗り味が変わる。万人が乗りやすいHPS-TAKAや上級者をも満足させてきたEP。中井くんが積み上げてきたすごさも、改めて実感しました」


「長さは正義」──藤本広海

アルペンからフリースタイルへ転向し、かつては「TOYOTA BIG AIR」で日本人最高位を記録。現在はフリーライドを軸に、スノーボーディングの奥深さと向き合い続けている、藤本広海。同時に「SALOMON STORE SAPPORO EXPERIENCE BASE」店長として、Salomonのプロダクトとユーザーを繋ぐ役割も担っている。さらに、HPS-TAKAやEPの開発においては、中井の“ブレーン”的存在として深く関わってきた。こうした背景があるからこそ、今回のKODOの開発において、吉田と高橋が全幅の信頼を寄せたのも、ごく自然な流れだった。
 

藤本広海

 
そんな藤本が、KODOを手掛けるに当たり、強く意識したことがある。
 
「“長さは正義”ってことですね」
 
KODOの設計思想を語るうえで、この言葉は避けて通れない。基準サイズを160に据えた理由が、そこに集約されているからだ。
 
「長いボードの魅力って、結局はドライブ感なんですよ。小手先でキュンって動かすんじゃなくて、しっかり踏み込んで、ボード全体を使ってターンする。その気持ちよさは、短いボードでは味わえません。だから、基準サイズを160に置きました。日本人スノーボーダーが無理なく扱えるスタンス幅や感覚を前提にしたうえで、一番バランスがいい長さだと思ったんです」
 

長尺のHPS-KODOで豪快なパウターンを切り裂く

 
フリースタイルに寄せすぎれば、ノーズのキックなどが強くなり滑走性能は落ちてしまう。KODOはその割り切りも含め、「フリーライドをメインに、フリースタイルは“できる範囲で”」という明確な立ち位置をとった。
 
153、160、167というサイズ展開にも、その思想は色濃く表れている。160は、ゲレンデクルージングからサイドカントリー、もちろんバックカントリーをもカバーする長いボードへの入口的存在。167は、ディープなパウダーデイやスピードを求めたくなる広大なフィールドで本領を発揮するミッドレングス的なモデル。そして153は、チームライダー・中村陽子の使用を想定しつつ、春先のフリースタイル色の濃いライディングでも活躍するサイズ感を意識した。
 
見た目は寸胴で直進性が高いけれど、その形状・長さのわりによく曲がる。それがKODOの特徴のひとつだが、これはSalomon独自のサイドカーブが採用されているためである。
 
「ウエストが極端にくびれてるわけじゃないけど、小さなカーブがいくつか組み合わさっていて、支点になるところでちゃんとトーションが効くんです。だから、見た目よりずっと曲がりやすいし、扱いやすいんですよ。また、啓介のリクエストだったスピード感に関しては、ノーズロッカーをあえて寝かせ気味にして、雪から受ける抵抗を減らしています。ただ、やっぱりフリースタイルな動きもほしいので薄いキャンバーは入れました」
 

細かな地形での操作性も抜群

 
また、ライディングをラクにしてくれるSalomonらしい“補助機能”をどう活かすかも、議論を重ねたポイントだったという。多くのユーザーにとっては「乗った瞬間に違いがわかる扱いやすさ」も重要だからだ。これは藤本のショップ店長ならではの視点かもしれないが、吉田と高橋からも賛同を得て採用された。
 
「難しい板を乗りこなす楽しさが好きなら、別ブランドのボードを手にする選択肢もあるじゃないですか。でも、Salomonのように滑りをラクにしてくれるテクノロジーがあって、速くて、気持ちよく滑れるなら、それでいいじゃないですか。まず、このボードで“長さ”のメリットを体感してもらいたいですね。そこから、もっとロングなボードに乗り替えてもいいと思います。そういったきっかけになれたら嬉しいですね」
 
中井のボードの系譜を引き継ぐことへのプレッシャーは、藤本にもあったそうだ。だが、すでにサンプルボードに搭乗したチームライダーからは高い評価が寄せられている。藤本の不安は確信へと変わった。
 
「中井が築いてきたものがあったから、僕らもここまで踏み込めたと思うんです。KODOは、その“流れ”を止めないための一本でもあります」
 
鼓動。3人のライダーの挑戦は、まだ始まったばかり。そして、すでに藤本の頭の中には、次なるボードの“妄想”が動き始めているそうだ。


中井孝治が築き上げてきたHPSという系譜は、ひとつの区切りを迎えた。だが、それは終わりではなかった。吉田啓介が示した「山での自由」。高橋福樹が持ち込んだ「日常の楽しさ」。藤本広海が裏側から支えた「滑走性能の本質」。それぞれの視点と経験が重なり合い、HPS-KODOが生まれた。
 
誰かひとりのシグネチャーではない。けれど、日本の雪、日本の地形、日本のライディングシーンから生まれたモデルであることは確かである。KODOは、フリーライディングの原点に、現代的な解釈を加えて寄り添ってくれる存在だ。難しさを誇るのではなく、ただ純粋に、気持ちよさを追いかけるために。


HPS-KODO

HPS-KODO

▷プロファイル: パウダーフラットキャンバー

▷シェイプ: テーパードディレクショナル

▷全長: 160cm

▷有効エッジ長: 117.8cm

▷ウエスト幅: 26cm

▷サイドカーブ半径: 8.2m

▷セットバック: 3cm

▷サイズバリエーション: 153、167cm

▷価格: 132,000円

日本のロケーションで、日本人が滑るために作り上げられたボード。HPSシリーズのトップモデル

text: HaruAki

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