BACKSIDE (バックサイド)

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東京のど真ん中に雪を降らせて15年。「東京雪祭 SNOWBANK PAY IT FORWARD」が提示する、楽しいから始まる社会貢献の現在地

2025.12.17

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11月中旬、まだ秋の気配が色濃く残る東京・渋谷の代々木公園に、突如として雪が降る。この非日常な光景も、今年で15回目を迎えた。
 
「東京雪祭 SNOWBANK PAY IT FORWARD(SBPIF)」は、スノーボードや音楽、アートといったカルチャーと、献血・骨髄ドナー登録という社会貢献を、鮮やかに繋ぎ合わせたイベントだ。15周年という大きな節目を迎えた今では、シーズンインを目前に控えたスノーボーダーたちが全国から集い、冬の到来を告げる風物詩として、シーンに定着している。
 

会場には特設ステージと献血バスのほか、さまざまなブースも出店している。フードやアルコール類も楽しめるが、献血に協力したい方は「飲む前に採る」ことを忘れないように

 
この巨大なプロジェクトを牽引し続けてきた男、荒井“DAZE”善正。かつて「100万人にひとり」の難病・慢性活動性EBウイルス感染症を患い、骨髄移植によって生還した彼がこのイベントを立ち上げた理由は、15年前からブレていない。ひとつは、「治療が必要な患者さんが、治療のスタートラインに立てる環境を作ること」。 そしてもうひとつは、「命を救ってくれたスノーボードの素晴らしさとカッコよさを、一般社会に伝えること」。しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。
 
「最初の頃は、10年くらいやれば献血もドナー登録も当たり前の社会になって、東京ドームや六本木ではまたかつてのようにスノーボードイベントがバンバン開催されるようになって……オレの役目は終わると思っていたよ。でも、そんな甘いもんじゃなかった。今もまだそういう社会は実現できていないし、このイベントも10年やってみて初めて、形になったなと思うくらい」
 
患者のための社会環境を実現する目標がある以上、道半ばでイベントを終わらせるわけにはいかない。何があっても「止めない」ことこそが、彼にとって最大の戦いだった。
 

15年間1度も止まらずに開催し続けたSBPIF。イベント当日は主催者自らブースをまわり、ボランティアスタッフに声をかける

 
だからこそDAZEは、SBPIFに特定のメインスポンサーを据えることを拒んだ。ひとつの企業に依存すれば、彼らが去ったときにイベントの命脈が尽きてしまうからだ。代わりに彼が選んだのは、あえて多くのブランドやショップを横並びで協賛に迎えるという道だった。
 
「小さな力を集める。そうすれば、誰かが抜けてもSBPIFは止まらない」
 
その揺るぎない信念のもと、DAZEと想いをともにする仲間たちは「楽しいから始まる社会貢献」の実現に向けて、15年間走り続けてきたのだ。
 

老若男女を問わず活躍しているSBPIFボランティアスタッフ。素晴らしいイベントを影で支える彼らにも拍手を送りたい

 
そしてSBPIF最大の見どころ「JIB STYLE BATTLE」でアツいライディングを披露するライダーたちも、このイベントを支える立役者たちだ。DAZEが毎年のように開会式で彼らに投げかける言葉がある。
 
「ライダーの役割は、カッコいいライディングを魅せて、スノーボードの魅力で人を集めること」
 
下剋上を目論む若手ライダーたちにとっては登竜門的なイベントであり、2日目に開催される本戦にはストリートシーンの最前線で活躍するようなインビテーションライダーたちも揃う。DAZEの願いどおり、今年も特設ステージでは日本最高峰のジバーたちによるアツいジャムセッションが繰り広げられた。その一部をお届けしよう。
 
女子決勝はジャッジを務めた小川凌稀が「上手すぎる。メイク率も高いし、感動するシーンが多く、盛り上がった」と思わず語るほど、見応え抜群でドラマチックなセッションとなった。その中心にいたのは高森日葵と坂本妃菜乃のふたりだ。滑走順が連続する中、序盤からペースを掴んだのが妃菜乃だった。メイクを重ねながら、ダウンレールでハードウェイCAB270オン270オフ、さらにダメ押しとばかりにダブルダウンでテールを踏み込んだスタイリッシュなFSボードスライド270オフをメイクし、優勝をつかみ取った。ストリート育ちの日葵はトリックの完成度にこだわり、ダブルダウンにてFSボードスライド・プレッツェル270オフ、そして惜しくもジャッジ時間外とはなったが、ダブルダウンでBSリップスライドをパーフェクトに決めたのだ。メイク数は劣ったものの、観客の記憶に残るスタイリッシュなライディングを披露した。
 

プレッシャーの中で放った妃菜乃のスタイリッシュなFSボードスライド270オフ

 

日葵のBSリップスライド。ダブルダウンを最後までコスり切っていた

 

花田雫はこのBSボードスライドを皮切りに、序盤から安定してメイクを重ね3位に

 

福澤璃沙子の執念が実った瞬間。このCAB270オン・フェイキーオフが女子のベストトリックに選ばれた

 
近年のJIB STYLE BATTLEはトリックの高難度化が続いていたが、今年の男子決勝は様相を異にした。ベーシックながらもクリエイティビティが光るトリックで、表現力を競い合う展開となったのだ。この接戦を制したのは松岡秀樹。序盤にバックサイド側のダブルダウンをスタイリッシュなBSボードスライドで攻略すると、ダウンレール、その逆側のダブルダウンでも着実にメイクを重ねた。自身の最終滑走ではノーズの一点でレールを捉え切るような見事なCAB270オンを披露。優勝を確信したかのように、力強く拳を突き上げた。
 

松岡秀樹が最後に放ったCAB270オン。回転の勢いからフェイキーオフが順当なトリックだが、完璧なコントロールでメインスタンスに戻した

 
また脱力スタイルでダウンレールを攻めた梅原颯太の滑りは、凌稀も「スタイルなら(颯太が)断トツでカッコよかった」と太鼓判を捺したほど。BS180オン・スイッチノーズマニュアル・CAB360オフなど、オリジナリティ溢れるトリックチョイスを見せていた。
 

個性的なトリックチョイスを武器に戦った梅原颯太。序盤にメイクしたFS5-0・FS180オフ

 

過去最強のストリートビデオ「NEKOSOGI」で凌稀たちと多彩なフッテージを残した米野舜士は、3位に名を連ねた

 

ダブルダウンの手前に設置された柵へオーリーを仕掛け、そのまま50-50で抜き切った “8931”こと松下大地

 
ステージ上で火花を散らし、スノーボードの魅力を表現し続けているライダーたちの意識も、徐々に変化してきている。かつては「東京で滑れるからラッキー」と考えていた若者たちが、今では「なぜここで滑るのか」を理解し始めているとDAZEは語る。
 
SBPIFの開催1日目。翌日に出番を控えたライダーたちの一部が、会場の献血バスに集まっていた。先のJIB STYLE BATTLEや、SBPIFの翌々週に大阪・北御堂にて開催された「COWDAY STREET」でも健闘した長澤颯飛も、姿を見せたひとり。話を聞くと、これが彼にとって人生初の献血だと言う。
 
「正直、これまではSNOWBANKを大会だと捉えている節が強かったです。でも、DAZEさんの記事を読んだり、SNSを見て、ハッとしたタイミングがあって……なぜこのイベントをやっているのか、その想いを知りました。この東京のど真ん中で、15年もイベントを続けていること自体がとてつもないことだと思うんです。それに気づいて『これやべぇな』って。だからもう、スーパーリスペクトですよね。そんな場所にライダーとして呼んでもらっているのに、何もしないのは違うなって」
 

DAZEの理念に共感し献血に協力しつつ、「自分らしい滑りを魅せること。それがライダーとして呼んでもらっている自分の意味なのかなと思います」と颯飛は語る

 
彼は今回、骨髄バンクのドナー登録も行った。「もし自分がその立場になったら」と想像力を働かせ、恐怖心よりも行動を選んだのだ。
 
「SNOWBANKはそれを『楽しい』の延長で伝えてくれる。僕らがこうやって献血している姿を見せることで、『意外と軽くできるんだぜ』って伝わればいい。これは『ダサい』とか『カッコいい』とか、そういう次元の話じゃないから」
 
いっぽうで、海外のイベントにも精力的に参加し、ガールズジビングシーンを牽引するSUICAこと石原晴菜にとって、献血は日常の一部だ。
 
「健康だから、普通に血を分けられたらいいかなって。単純な理由です」
 

SBPIF会場に限らず、日頃から献血に協力しているSUICAも、骨髄ドナーは未登録だったという。「あまり(内容を)知らなかったんですよね。説明を聞いてみると登録自体は簡単だったので、全然いいなと思って登録しました」

 
彼女は海外でよく見られる「ドネーション(寄付)」の文化を引き合いに出す。
 
「海外だと、仲間がケガをしたらすぐにページができて、みんなでお金を出し合うんです。『頑張れ』の言葉だけじゃなくて、行動で助ける。日本人はこういうのを恥ずかしがるけど、人を助けるために立ち上がるのは、全然恥ずかしいことじゃないと思うんですよね」
 
彼らは決して、社会貢献活動家になりたいわけではない。翌日の大会では、颯飛もSUICAも、ライダーとして自身のスタイルを追求した滑りを魅せていた。
 

男子決勝のハイライトのひとつになった、颯飛のスイッチBSリップスライド

 

十八番のFSボードスライド・プレッツェル270オフで会場を沸かせていた

 
多くのスノーボーダーたちに伝わり、行動をも変え始めたDAZEの想い。15年走り続けたDAZEの視線は、それでも常に“次”を見据えている。
 
「そろそろ、次の世代に引っ張っていってほしいよね。スノーボードはスポーツではなく、表現でありライフスタイルだから。以前はライダーとして参加してくれていた人が、よりよいイベントのために少しずつ意見を出してくれるようになったり、『自分ごと』としてSBPIFを捉え始めてくれている。そういう次世代が増えていけばいい」
 
DAZEが掲げる究極のゴールは、SNOWBANKが必要ない社会を作ること。
 
「(掲げた目標が達成されて)SBPIFがいらない社会になったら、解散していいからさ(笑)」
 
東京のど真ん中で15年間、雪を降らせ続けてきたDAZEの揺るぎない想いは、確実に次世代へと受け継がれようとしている。「楽しいから始める社会貢献」を体現し続けるスノーボーダーたちの姿を、ぜひ来年も観戦しに行ってほしい。2026年は10月31日(土)、11月1日(日)に開催が予定されている。
 
男子結果
1位 松岡秀樹 
2位 梅原颯太
3位 米野舜士
ベストトリック 松下大地
  
女子結果
1位 坂本妃菜乃
2位 高森日葵
3位 花田 雫
ベストトリック 福澤璃沙子

text: Yuto Nishimura
photos: Yoshiro Higai, Yoshito Yanagida and Ryo Hiwatashi

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