BACKSIDE (バックサイド)

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FEATURE

STEP ON、SUPERMATIC、FASE、それともストラップ? “速さ”だけでは語れない、滑走フィーリングで選ぶ「足回り新時代」

2025.11.28

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25-26シーズンは、足回り選びが真の意味で自由になる節目である。装着時間を短縮するために生まれたクイックエントリーは、すでに“速さ”だけの議論を終えた。剛性配分やトーションの伝達、荷重方向のチューニングといった操作性そのものを設計する足回りへと進化を遂げたのだ。
 
そのいっぽうで、細やかな調整やテクノロジーを受け止める懐の深さを持つストラップバインディングも、依然として揺るぎない存在。どんな雪や地形を求め、どんなテンポで、そして誰とラインを刻むのか。足回りを自分の“ライディング観”に合わせる新時代が今シーズン、ついに始まる。

目次

STEP ONは“速い”だけじゃない。その価値は足裏に宿る

90年代に登場したSTEP IN(専用ブーツの足裏に配置された部品と、専用バインディングのフットベッド部分の脱着を行うシステム)は、脱着の速さこそ革新的だったが、“足裏の自由度”が失われるという致命的な弱点を抱えていた。
 
その欠点を克服したのが、2017年にBurton(バートン)から発表されたSTEP ONである。カカトとツマ先両側面の3点でロックする構造により、フットベッド上にわずかな可動域を残すことに成功。ベースプレート内に絶妙な“遊び”が生まれた。これが従来のストラップと同様にバインディング内での自由度を生み、STEP INでは実現できなかったフリースタイル性能をもたらしたのだ。

 

着脱スピードは圧倒的。掛け声は“Heel, Toe, Go.”

 

ベースプレートとロック位置の間に設けられたわずかなクリアランスが、縦方向の剛性を保ちながら横方向へのしなりを許容している。そのため、エッジに入る初動はシャープで、ターン中盤ではボード本来のトーションが素直に感じられる。荷重を抜く動きもスムースで、ターン全体がひとつの線としてつながるのがSTEP ON最大の特徴だ。
 
世界中のビッグマウンテンを経験し、数々のプロダクト開発にも携わってきたレジェンドライダーの植村能成(ウエ)は、バックカントリーを含め、自身のライディングの100%をSTEP ONで行う。
 
「理想のスタンス幅とトーションコントロールを両立できるのがSTEP ON。剛性は高いのに、わずかにしなる柔軟性があって、低速でも高速でもフィーリングが変わらない。ストラップ時代は操作性を得るためにスタンスを広げていたけれど、いまは狭めても安定感が失われない」と、ウエは語る。
 
ゲレンデクルージングはもちろん、バックカントリーでは、その速さが何よりも武器となる。ワンアクションで装着できることにより、雪上でのわずかな間も逃さず、ラインを読む余裕が生まれるからだ。また、BOAによる均一なフィット感がSTEP ONとの相性を高め、一日を通して安定した操作性を保つ。
 
「これまではストラップを緩めたり増し締めすることでフィーリングを一定に保っていたけど、STEP ONの場合はその調整を気にせずに、低速でも高速でも高いパフォーマンスを発揮できる。いつでも変わらないフィーリングで乗れるところが気に入っているよ」と、ウエは言葉を続けた。

 

信頼感と操作性のよさ。ウエがSTEP ONを選ぶ理由はこれに尽きる
photo: Neil Hartmann

 

近年ではDC(ディーシー)やFLUX(フラックス)、NITRO(ナイトロ)、UNION BINDING COMPANY(ユニオン バインディング カンパニー)といったブランドも参入し、プラットフォームが共通言語化。自由な組み合わせが可能になったことで、スノーボーダーそれぞれのスタイルや好みに合わせた導入がしやすくなった。
 
ジェイク・バートンが掲げた「誰もが簡単にスノーボードを楽しめる未来」は、“簡単=速さ”だけではなく、“簡単=余白を生む”こと。最高のフィーリングで滑ることに集中する時間を増やすという本質的な価値が、STEP ONの進化によって現実のものとなった。

ストラップの魂を捨てない進化。SUPERMATICやFASEが描く未来

ストラップで包み込まれる一体感を残しながら、装着のテンポを高めたい。そんな要望に真正面から応えてきたのが、NIDECKER(ナイデッカー)が継承するクイックエントリーの系譜である。
 
その原点はFLOW(フロー)にある。ハイバックとヒールカップを一体化させた「ユニバック構造」によるリアエントリー方式は、ロックを解除するとハイバックが後方へ倒れ、ブーツを差し込めるという画期的なものだった。さらに、ベースプレート側面から伸びる「アクティブストラップ」が荷重をストラップ経由で伝達し、ヒールサイドの反応を研ぎ澄ませた。
 
FLOWが2016年にNIDECKERグループに加わったことで、その思想は次なるステージへと進む。専用ブーツを必要としないオートマティック型として2018年頃から開発が始まったとされるSUPERMATICは、踏み込むとヒールが自動ロックされる独自機構を搭載する。ヒールカップ内の2点を支点とした「ブランコ構造」により、荷重がトルクとして増幅されることで、踏み込む力以上にヒールエッジのグリップ力を獲得した。

 

SUPERMATICシステムに専用ブーツは必要なく、踏み込むだけで準備完了。脱ぐときも内側のリリースレバーを下げて足を抜くだけだ

 

プロショップ「SLUCK」を営む本間勝則は、次のように語る。
 
「このシステムを使うだけでヒールサイドのターンが上手くなったと勘違いするんじゃないかな。FLOWもSUPERMATICもヒールサイドターンがとにかくやりやすいので、自分はその分、少しツマ先側に出すようにセッティングしている」

 

バインディングを選ぶ上で重視してほしいのは、やはり自身の滑走フィーリングの好み。SUPERMATICやFLOWはヒールサイドターン時のグリップ力が特徴的なシステムだ
photo: ONEPACKPHOTOS

 

そして25-26シーズン。これらのDNAをよりストラップ的な思想へと近づけたFASEが登場する。リアエントリー構造を持ちながら、従来のストラップのホールド感を軸に設計された「ファストストラップ」が、装着動作を簡略化。ストラップの張力バランスや圧のかかり方はそのままに、締め直しや微調整の手順を削減している。結果として、ストラップバインディングの安心感とクイックエントリーの利便性を両立させることに成功した。一度決めたストラップテンションを崩さずに、立ったまま滑り出せるテンポを生む。専用ブーツが不要という汎用性により、初年度からROME(ローム)、JONES(ジョーンズ)、BATALEON(バタレオン)、THIRTYTWO(サーティーツー)など複数ブランドに横断採用されているのも大きな魅力だ。

 

STEP ONやSUPERMATICに比べると着脱に要する動作は増えるが、履いてしまえばその形はストラップバインディングと同様

 

同じ文脈では、ドイツ発のCLEWも存在感を示している。方向性は異なるが、「ストラップという安心感」を前提に効率化を追求している点で、同じ進化の流れにあると言える。
 
FASEが示すのは、速さの先にある“テンポのよさ”だ。単なる装着スピードではなく、動作を簡略化することでテンポが上がり、滑り出しまでの流れがよどみなくつながる。そのテンポアップが新たな感覚を生み、滑走前のリズムが整う。それがFASEの思想である。
 
FLOWからSUPERMATIC、そしてFASE。それらは機構の進化であると同時に、スノーボーダーの思考そのものの進化でもあるのだ。

トラディショナルにしか届かない領域。それが、選ばれ続ける理由

ストラップバインディングの価値は、単なる“伝統”ではない。今も変わらず選ばれ続けている理由は、大きくふたつある。
 
ひとつは、特殊な機構を受け止める懐の深さだ。たとえばSalomon(サロモン)のSHADOW FITのように、ヒールカップ自体をしならせ、横方向の追従性と“面で包む”一体感を両立させる構造は、ストラップバインディングだからこそ生まれる思想である。ハイバックやヒールカップ内に複雑な機構を組み込むクイックエントリーシステムでは、こうした柔軟な構造を再現するのは難しい。

 

ソフトヒールカップとケブラークイックワイヤーによってもたらされる「ボードとの一体感」は他の追随を許さない

 

スケートボードトラックの機能を継承して生まれたSKATETECHも、現状ストラップバインディングのみに搭載されている独自技術のひとつだ

 

もうひとつは、調整幅を広く持つ自由度の高さ。フォワードリーンやハイバックローテーション、ストラップ位置など、足回りの“当たり”をミリ単位で追い込めるのは、ストラップ式ならではの世界観である。雪質やライディングスタイル、スピード域、当日の気分でフィーリングを変えられるこの自由度こそが、長年滑り続けるスノーボーダーたちから揺るぎない信頼を得ている所以だ。
 
STEP ONを全面に押し出してきたBurtonでさえ、ストラップバインディングを併走させているのは、操作性の正解がひとつではないことを理解しているから。クイックエントリーが“再現性とテンポ”を更新してきたのに対し、ストラップは“可変性と包容力”という領域を守り続けている。

 

ストラップが持つフィット感が好みというスノーボーダーも多い。それぞれのシステムに優劣はなく、好みに合わせて選べばいい

 

ストラップバインディングは、微細調整とテクノロジーの受け皿であり、自分らしく雪と対話するための、もっともアナログで優れたプロダクトである。今も選ばれ続けている理由が、そこにある。

何を選ぶか。それが、ライディング観を語る

今日、足回りは“操作性”という言葉の奥で、“ライディング観”を語る存在になった。STEP ONやSUPERMATICは、着脱の速さを起点に進化し、その過程で独自の滑走フィーリングを獲得してきた。FASEは従来のフィーリングの延長線上にありながら、テンポをよくすることで新たな感覚をもたらすアプローチである。そして、ストラップには独自構造を搭載できる拡張性があり、さらに微細な調整により自分の感覚で足元を仕上げていく楽しさがある。用途も思想も異なり、どの選択肢にも揺るぎない価値がある。
 
もはや、クイックエントリーかトラディショナルかという単純な二択ではない。冒頭でも述べたように、どんな雪や地形を滑り、どんな仲間と過ごし、どんなテンポで雪山と向き合いたいのか──その答えに足回りを合わせればいい。
 
足回り革命元年のいま、“何を選ぶか”という行為そのものが、あなたのライディング観をもっとも雄弁に語るのだ。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor),Yuto Nishimura
photos: Yuto Nishimura

Burton

Malavita Re:Flex

▷サイズ: S〜L

▷カラー: BLACK

▷価格: 60,500円

ブーツを包み込むようなフィット感で優れた操作性を実現。ミドルフレックス、レザーストラップ搭載のフリースタイルモデル

「現場の声」が世界を動かした。Burtonの名機「MALAVITA」が、なぜ今、再び必要なのか

本格的なシーズンインを目前に控えた今、シーンのリーディングブランドであるBurtonから、あの名作が再びリリースされているのをご存知だろうか。かつて世界中のフリースタイラーの足元を支え、惜しまれつつ姿を消した名機「MALAVITA」が復活した。
 
STEP ONが席巻する現代において、なぜ今、あえてトラディショナルなストラップバインディングなのか。そしてなぜ、後継機ではなくMALAVITAでなければならなかったのか。2025年11月にオープンした国内で12店舗目、東北エリアでは初のBurtonストア「Burton Store Sendai」のスタッフであり、長年シーンを見つめてきた高橋聖一氏の証言とともに、その必然を紐解く。

喪失が生んだ「空白」と、現場からの渇望

時計の針を少し戻そう。2010年の登場以来、MALAVITAは常に特別な立ち位置にいた。パウダーやフリーライドを志向するハイエンドモデルの「GENESIS」、硬派でカービングの切れ味を求める「CARTEL」。その間にありながら、「大人のフリースタイル」という絶妙な領域で支持を集めていたのがMALAVITAだった。

 

09-10シーズンに登場した初代(写真左)から順に、12-13モデル(写真右)まで。当時からフリースタイルを愛するスノーボーダーたちに支持されていた
photo: BURTON

 

しかし、22-23シーズンを最後にその名はラインナップから消滅する。 このとき、多くのスノーボーダーがMALAVITAの代名詞である「ヒールハンモック」という構造が採用されている「CARTEL X」に視線を向けた。「テックが同じなら、代わりになるのではないか?」、そう考えたユーザーも多かったようだが、現場の感覚は違っていた。
 
「CARTEL Xにもヒールハンモックは付いているんですが、MALAVITAと比べて、ハイバックが薄く硬くなっています。クッション性や、特有の『ルーズ感』を求めるお客さんからは、MALAVITAのほうが動かしやすいという声を多く聞きましたね」

 

ヒールハンモック構造を備えたミディアムなフレックスのハイバックこそが、MALAVITAを名機たらしめた

 

10年以上愛されてきたこの名機がカタログから消えたことで、絶妙なホールド感を愛する層、特に30代から50代のスタイルにこだわる大人たちに刺さるプロダクトが、Burtonのラインナップからぽっかりと抜け落ちてしまったのだ。
 
「うちの店だけでもいいから復刻してくれ」── 仙台の店頭から上がったそのリクエストは、実は日本中、いや、むしろ世界中の現場スタッフ共通の願いだったのかもしれない。その熱意がグローバルレベルに届き、今シーズン、台数限定でのリリースが決定したのである。


ゴムとレザーが生む「有機的なフィット」

では、なぜそこまでMALAVITAは愛されたのか。答えはカタログスペックの数値ではなく、先述の「ヒールハンモック」と「レザーアンクルストラップ」が生み出す、有機的なフィーリングにある。
 
まずはヒールハンモックによってもたらされる特有の「ホールド感」。ハイバック下部に搭載されたゴム状のメッシュ素材が、ブーツのヒール部分に強烈に食いつく。
 
「これがあることで、ヒールカップとブーツが密着するんです。力が逃げないので、ガチガチにストラップを締める必要がない。遊びを残しながら、ちょうどいいホールド感が得られるんです」

 

11-12モデルに初めて搭載されて以来、愛用者の心を掴んでいるヒールハンモック。このホールド感が素早い反応を生む

 

そしてMALAVITAのホールド感をさらに高める要素として外せないのが、これまでも数年に一度採用されてきた、レザーアンクルストラップの存在である。
 
「正直、最近の軽量ストラップに比べれば重いです。でもレザーだからグリップもよく、ブーツと一体化する感覚が味わえる。使い込むほどに柔らかく、足に馴染んでいくあの感覚も、人気の理由だと思います。(平野)歩夢が使っていたのも頷けるというか(笑)、ヒールハンモックとレザーストラップで生み出されるホールド感は、唯一無二ですね」

 

「このバインディングとレザーのストラップの相性がいいことを、MALAVITA好きの人はみんなわかっているんじゃないかな」と語る高橋氏。今回の復刻モデルにも採用されたことで、すでに往年のファンたちは店頭で手にとっているそうだ

 

今回復刻されたMALAVITAはすべてのメジャーマウンティングシステムに対応するRe:Flexモデル。Burton以外のブランドのボードにも、そのまま装着が可能だ


トラディショナルにしか届かない領域。それが、選び続けられる理由

今、あえてストラップバインディングを選ぶ理由。それは、手間をかけるだけの価値がある「密着感」と道具を育てる喜びにある。
高橋氏はインタビューの中で、ある事実を明かしてくれた。
 
「昨シーズン、MALAVITAがないからとCARTEL Xを使ってくれていた僕の友人も、今季MALAVITAが出た瞬間に『戻るわ』と言って予約していきました(笑)。一度この感覚を知った人は、やっぱり戻ってくるんですよね」
 
これは単なる過去の名機の焼き直しではない。スピードと効率を求めた進化の過程で置き忘れてきた「スノーボードの本質的な気持ちよさ」を、再び足元に取り戻すためのプロダクトなのだ。
 
もしあなたが、スタイルを出したいと願うスノーボーダーなら。あるいは、道具に物語を求める大人なら。 店頭でこのレザーストラップに触れてみてほしい。その重みと質感を感じた瞬間、あなたの25-26シーズンは間違いなく、これまでより濃いものになるはずだ。

text + photos: Yuto Nishimura

DC

PHASE BOA PRO STEP ON

▷サイズ: 8~10 inch

▷カラー: BKW

▷価格: 70,400円

履き心地の微調整が可能なスーパーロックヒールハーネスと、優れたフィット感を発揮するレスポンスライナーⅢを搭載した人気モデル

ストリートの美学と、完成されたシステム。DCが提示する「PHASE BOA PRO STEP ON」という回答

今、スノーボードシーンでは「足回り」の常識が大きく変わろうとしている。かつては“速さ”だけが議論の対象だったクイックエントリーシステムは、いまや“操作性”や“ライディングの質”そのものを向上させるための選択肢へと進化した。
 
その変革のど真ん中にあるのが、Burtonが生み出した傑作「STEP ON」だ。だが、システムが優秀であればあるほど、悩みは別の場所へと移る。「システムはSTEP ONを使いたい。でも、ブーツはもっと自分のスタイルに合ったブランドを選びたい」
 
そんなストリートマインドを持つスノーボーダーへの回答が、ここにある。スケートシューズのDNAを宿すDCが放つ、PHASE BOA PRO STEP ON。これは単なる利便性の追求ではない。スタイルとテクノロジーが融合した、足回り革命のひとつの到達点だ。

なぜSTEP ONなのか? 構造が導き出す“信頼”

もはやSTEP ONの“速さ”について、多くを語る必要はないだろう。リフトを降り、立ち止まることなく滑り出すシームレスな体験は、ライディングに余白を生み出し、ラインを読む余裕を与えてくれる。
 
だが、弊メディアがこのシステムを推す理由は「ラクだから」だけではない。スノーボードという遊びの動きに対して、構造的に矛盾がないからだ。
 
STEP ONの最大の特徴は、カカトとツマ先両側面の3点でロックする構造にある。一見しっかり固定されているように思えるが、実はベースプレートとロック位置の間には絶妙なクリアランスが設けられている。この構造が、エッジングに必要な「縦方向の剛性」を保ちながら、スムースなターンやスタイルを出すために必要な「横方向への動き」を許容する。バインディングがブーツの動きを阻害せず、ボード本来のトーションを素直に引き出せる。
 
「ラクなシステム」である以前に、「理にかなったシステム」であること。だからこそ、完全なライダー主導のマインドセットは保ちつつ、これまでとは違った新しいことに取り組む姿勢を見せてきたDCも、このプラットフォームを採用したのだ。
 
足元を見る。そこにあるのは、無骨で機能的なギアではなく、まるでスケートシューズのようなルックス。「スノーボードはカルチャーだから、履くならスニーカーブランドのものがいい」──DCライダーで唯一、STEP ONを日常的に使用する成澤佳央梨はそう語る。

 

スニーカーのようなルックスはそのままに、DCとBurton、それぞれの最新テクノロジーが詰まった一足

 

今回フィーチャーするのは、DCのラインナップでも特に注目度の高いPHASE BOA PRO STEP ON。長年愛されてきた定番モデル「PHASE」をベースに、STEP ONインターフェースを搭載したハイスペックモデルだ。インソールには環境に配慮しつつクッション性を高めた「IMPACT-ALGモールドインソール」を採用。スケートボードの着地衝撃から足を守るために培われた技術が、雪山での快適性も支えている。

 

藻類から作られたインソールは環境に配慮しつつ、優れた衝撃保護機能をスノーボーダーの足元にもたらしてくれる


「一足で二足分のライディングを」──スーパーヒールロックハーネスの魔術

このモデルを「DCのSTEP ON」として選ぶ最大の理由は、「スーパーロックヒールハーネス」を活用した乗り味の可変性にある。
 
成澤はこのブーツの魅力を、「一足で二足分の使い分けができること」だと表現する。このモデルに搭載されたBOAフィットシステムは、正面とサイドのダイヤルで役割が分かれており、特にサイドのダイヤルは、足首内部のハーネスと連動。回すことでカカトを強制的にバックのポケットへ引き込み、ホールドする構造になっている。
 
「私はアウターが柔らかめのブーツが好きなんですけど、高速で滑るときや朝イチの硬いバーンでは安定感がほしい。そんなとき、サイドのダイヤルを回して中のハーネスだけをギュッと締めると、アウターの硬さはそのままに、カカトだけがガッチリ固定されるんです」

 

正面のダイヤルはアウターを、サイドのダイヤルはスーパーロックヒールハーネスを。それぞれを締め分けられるため、操作性を損なわずに乗り味を調節できる

 

つまり、ダイヤルひとつで「サーフライドのような遊びのある乗り味」と「高速域に耐えうるホールド感」を行き来できるのだ。 STEP ONという完成されたシステムの上で、あえて「遊び」と「固定」を自分でコントロールする。この自由度こそが、PHASE BOA PRO STEP ONの魅力だ。

 

たとえばビッグジャンプに挑む前には、サイドのBOAを締めて抜群のホールド感を味わってみてほしい
photo: Ryo Hiwatashi


選択は、あなたのスタイルを語る

「実際に使ってみて感じるのは、失ったものは何もないということ。むしろ、ストラップに戻したときに『あ、屈んでバインディングを履くのってこんなに大変だったんだ』って気づかされるんです」 
 
成澤が笑いながら語るその実感は、多くのスノーボーダーがこれから体験する未来そのものだ。
 
システムとしての圧倒的な信頼性と、調整機構が生む自由度。 もしあなたが、STEP ONの完成度を手に入れたいと願い、同時に足元から漂う「スタイル」にも妥協したくないのなら、答えはDC PHASE BOA PRO STEP ONだ。

 

成澤佳央梨
photo: Remi Fukamachi

 

すでに店頭には並んでいるので、ぜひこのブーツに足を通してみてほしい。カチッという装着音とともに、あなたのスノーボードライフに新しいテンポと、自由なスタイルがもたらされるはずだから。

text + photos: Yuto Nishimura

JONES

MERCURY

▷サイズ: M、L

▷カラー: ECLIPSE BLACK

▷価格: 63,800円

完璧なレスポンスを可能にするミディアム~ハードなフレックス。SKATETECHを搭載したオールテレイン・フリースタイル対応モデル

足元から変革せよ。JONES「MERCURY」に宿るふたりのレジェンドの魂と、吉野あさひが見据えるライン

ライディングという行為において、身体とボードを接続する重要な役割を果たしているバインディングシステム。 25-26シーズン、業界を席巻している新システム「FASE」の搭載モデルが話題をさらっているが、JONESにはもうひとつの革命が静かに、しかし力強く継承されていることを忘れてはならない。それが、トラディショナルなストラップバインディングに搭載された「SKATETECH」だ。
 
なぜ、フリーライドの帝王ジェレミー・ジョーンズは、あえて他ブランドのテクノロジーを自社のギアに採用したのか? そして、コンペティションの枠に収まらず、若くしてビッグマウンテンの洗礼を受ける18歳のライダー・吉野あさひは、なぜそのバインディングを信頼するのか。
 
歴史と現場、ふたつの視点からその真価を紐解く。

必然だった共鳴。ジェレミー・ジョーンズとJFペルシャ

JONESの創設者、ジェレミー・ジョーンズ。言わずと知れたビッグマウンテン・フリーライディングの生ける伝説だ。彼は自身のブランドで、ボード、バインディング、バックパック、アパレルと、極限の環境下で機能するギアを自らの哲学に基づいて開発してきた。
 
いっぽう、2012年にバインディングブランド「NOW」を立ち上げたJFペルシャ。かつて、カナダを中心に活躍した「WILDCATS」の一員としてフリースタイルシーンを牽引した彼がガレージで開発した「SKATETECH」は、スケートボードのトラック構造をヒントに、荷重エネルギーをベースとなる「HANGER」から「KINGPIN」、そして「POST」へと無駄なく伝達するシステムだ。
 
そして、少ない力で強力なエッジングを生み出すこの機構に、誰よりも早く可能性を見出したのが、ほかならぬジェレミーなのである。

 

優れた衝撃吸収性、レスポンスの速さ、そしてエッジへのロスのないエネルギー伝達。バインディングという道具に求められる機能のすべてが優れたシステムだ

 

旧知の仲であったふたりの信頼関係は厚く、ジェレミーは立ち上げ当初からNOWのチームライダーとして名を連ねたほど。そして時が経ち、ジェレミーが自らのブランドのバインディングにこのシステムを搭載したいと申し出た際、JFは迷わず快諾した。「勢いのあるJONESで採用されれば、さらに多くのスノーボーダーにSKATETECHの体験を届けられる」──そう考えたからだ。
 
こうしてJONESのバインディングには、NOWが誇るSKATETECHの心臓部が、仕様変更されることなくそのまま移植されることになった。ストラップなどのパーツこそJONES流のチューニングが施されているが、その核にあるのはJFが創り出した純粋な機能美だ。これは、理想のスノーボーディングを追い求めるふたりのレジェンドがブランドの垣根を超えて手を組んだ、情熱のコラボレーションなのである。


吉野あさひが語る「信頼」と「余裕」

このテクノロジーは、実際の雪上でどう作用するのか。その答えを持っているのは、カタログのスペック表ではなく、過酷なフィールドに身を置くライダーだ。
 
レジェンドライダー・吉野“Yatto”康人のDNAを受け継ぎ、コンペティションシーンを経由せず、純粋な表現者としてビッグマウンテンの世界へ飛び込んだ吉野あさひ。現在18歳の彼は、小学6年生の頃からバックカントリーに入り、JONESとともに成長してきた。
 
そんな彼が愛用するのが、SKATETECHを搭載したバインディング「MERCURY」だ。
 
インタビュー中、あさひはJONESボードが持つ波打つエッジ「TRACTION TECH」への絶対的な信頼を口にした。そして、その信頼感を足元で支えているのがMERCURYである。
 
「カチカチのアイシーなところでかつ、『これ落とされたらヤバいな』っていうラインにいるとき。ちょっとでもズレたらヤバいなってところでも、ちゃんとエッジが効いてくれるボードとバインディングは、信用できますね」

 

TRACTION TECHとSKATETECHのコンビネーションは、ビッグマウンテンフリースタイルのフィールドでも十分にその効果を発揮する

 

バックカントリーにおけるアイスバーンや風に叩かれたハードパックでのエッジングのミスは、時として命に関わる。SKATETECHによるダイレクトなパワー伝達は、こうした極限の状況下での「命綱」としても機能しているのだ。
 
また、あさひの言葉で特に印象的だったのは、SKATETECHがもたらす“ラクさ”について。
 
「無駄な力がいらない分、自分の身体にかかる負担が少ない。少し踏むだけですぐ反応してくれるし、コントロールしやすいんです。ロングランのあとでも足が痛くなりにくかったりしますね」
 
「ラクである」ということは、単に手抜きができるという意味ではない。彼はこう続ける。
 
「ライディング中に余裕が生まれると、いろんなことを考えられるというか、その場所にいるだけで精一杯にならなくてすむのはありがたいんです。『ここけっこうヤバいな』っていうところだと、ひとつのターンでも気にしないといけないことがたくさんあるんですけど、自分の思ったとおりにボードが動いてくれると、次のことも考えやすいじゃないですか」

 

信頼できる道具によって生まれるライディング中の余裕は、次なるクリフへのアプローチや、より独創性の高いラインを思考するリソースとなる
photo: HOLY

 

またSKATETECHのメリットは、素早いレスポンスだけではない。滑り手の力が「ゼロかイチか」のように急激に伝わるのではなく、中心からエッジに向かってジワジワと伝わる構造になっている。このため、まるでボリュームダイヤルを回すように、わずかな力加減で繊細なエッジワークを可能にするのだ。
 
「少しずつ体重をかけていくような、伸ばすターンのときは、SKATETECHの効果を感じていると思います。あとはジャンプに向かうラインを合わせるときとか……ボードをコントロールするとき絶対に必要な動きが、全部ラクになる感覚です」
 
大きなスプレーを上げるロングターン中の過重や、エアに向かうための最後のアプローチ。そういった場面での「ジワジワとした踏み込み」においても、MERCURYはその真価を発揮する。
 
素早い反応と、繊細な操作性。そして身体への負担軽減。あさひが語るように、「ボードのコントロールにおけるすべてがラクになる」ということだ。MERCURYは、ライダーを不自然な力みから解放し、純粋に滑走を楽しむための装置なのである。

 

吉野あさひ
photo: HOLY


足元から自由になるために

JONESが贈るMERCURYは、ジェレミー・ジョーンズとJFペルシャというふたりの天才が「理想のターン」を追求した歴史の結晶であり、吉野あさひという次世代の表現者が、未知のラインを切り拓くための武器だ。バックカントリーのハードな斜面であれ、ゲレンデのピステンバーンであれ、「意のままにボードを操る」という快感は、すべてのスノーボーダーが求める境地だろう。
 
足元に不安はないか? 無駄な力みはないか? もし、今のセッティングに少しでも迷いがあるなら、この歴史と実績に裏打ちされたシステムを試してみてほしい。

text + photos: Yuto Nishimura

Salomon

HIGHLANDER

▷サイズ: S~L

▷カラー: BLACK

▷価格: 55,000円

3D Minimaハイバック、レスポンスパッド、そしてSHADOW FITの組み合わせが、ボードとの一体感を生み出す

ハーフパイプ次世代の旗手・山田琉聖が、オリンピックへの道をSalomon「SHADOW FIT」に託す理由

本記事では「足回り新時代」と題し、バインディングが単なる固定器具から、ライディングの質そのものを決定づけるインターフェースへと進化した現状を伝えてきた。クイックエントリーが台頭する中で、トラディショナルなストラップバインディングもまた、独自の進化を遂げている。
 
その最前線にあるのが、Salomonが誇る「SHADOW FIT」だ。これまでSHADOW FITに対する一般的な認識は、柔らかいヒールカップが生む、足首の自由度と快適性が主だろう。しかし、それは真実の半分ほどでしかない。
 
世界最高峰のハーフパイプシーンで躍進を続けるミラノ・コルティナ五輪の有力候補、山田琉聖もまた、このシステムを愛用するひとりである。なぜ彼は、過酷なコンペティションの現場で、あえて「柔らかいヒールカップ」を選ぶのか。そこには、従来の「硬いギア=高反発・高安定」というスノーボード界の定説を覆す、新たなライディングの哲学があった。

 

バックカントリーのパウダーライディングだけで真価を発揮するシステムではない。琉聖の独創的なエアを支えるのもまた、SHADOW FITなのだ


「足とボードが直結する」という感覚

ハーフパイプにおいて、ライダーは極限の正確さを求められる。氷のように硬く高い壁で、一瞬のミスも許されないリップへのアプローチを制しながら、誰よりも高く宙を舞う必要がある。そのため、多くのコンペティターは、少しの反応の遅れも排除するために、硬いブーツに硬いバインディング、そして硬いボードを組み合わせるのがセオリーとされてきた。
 
琉聖も最初からSHADOW FITを使っていたわけではない。小学生の頃は硬いヒールカップを持つバインディングを使用し、途中でSHADOW FIT採用モデルへと移行したそうだが、その際に興味深い実験を行っている。「硬いヒールカップのバインディング」と「SHADOW FIT」を交互に乗り比べ、そのフィーリングの違いを確かめたのだ。
 
「硬いバインディングと同じ感覚でSHADOW FITに乗ったら、壁に突っ込んじゃって。ヒザを内側に入れる動作がやりやすすぎて、いつもの力加減だと深く入りすぎてしまった。それくらい、力がダイレクトに伝わっていたんです」
 
琉聖がSHADOW FITに感じているのは、単なる柔らかさではない、直感的な伝達力だ。SHADOW FITの最大の特徴であるヒールカップには、ケブラー製のクイックワイヤーが内蔵されている。これがカカトを包み込むようにホールドしているので、横方向への足首の可動域を確保しながらも、縦方向、つまりエッジへのエネルギー伝達をロスなく行うことができる。

 

バインディング中央部から伸びるワイヤーによって、ヒールカップとベースが一体化。高速エッジワークにも耐えうるレスポンスを提供している

 

「これまでより弱い力で壁を上れるようになったから、高回転をしかけるときには、さらに強い踏み込みができるようになったというか。ボードの操作に余裕ができたので、いろいろな動きに自由度が増した感覚がありました」
 
無駄な力を使わず、リラックスしてアプローチできるからこそ、リップを抜ける瞬間に100%のパワーを注ぎ込める。この効率のよさこそが、琉聖の独創的なルーティーンの実現につながっているのだ。
 
「バインディングを通して板を踏む感覚じゃないんです。足と一体になって、ボードに直接力が伝わる。だから、ボードからのフィードバックもダイレクトに足裏に返ってくる。自分が今、どれくらい踏めているかが明確にわかるんです」


HIGHLANDERがもたらす「自由」と「信頼」の黄金比

SHADOW FITを採用するモデルの中でも、琉聖が現在メインで使用しているのが「HIGHLANDER」だ。軽量かつ剛性の高いMinima 3Dハイバックと、レスポンスパッドを組み合わせたこのモデルは、シリーズの中でもっともレスポンシブな反応を持つ。
 
撮影ではより自由度の高い「DISTRICT PRO」を使用することもあるというが、コンペティションの現場でHIGHLANDERを選ぶのには明確な理由がある。
 
「基本的にはSHADOW FITの自由度が好きなんですけど、最近取り入れているアーリー系のトリックのときや、スイッチバックサイドでのアプローチなど、シビアなヒールサイドでのグリップ力を考えると、ハイバックにはある程度の硬さがほしいんです。HIGHLANDERは『自由度』と『硬さ』のバランスが完璧なんですよね」

 

柔らかいヒールカップと硬めのハイバックのコンビネーションにより、ボードとの一体感がさらに強まる

 

SHADOW FIT特有のソフトなヒールカップが、スタイリッシュなグラブやヒザを入れる動作を可能にする“自由”をもたらし、硬いハイバックが強烈なGに耐えうる“信頼”を担保する。 彼にとってHIGHLANDERは、緊張感のある舞台で戦うための相棒なのだ。
 
「パイプはエアの高さが大切だと思うんです。僕が高さが出せるような踏み方に、ちゃんと対応してくれる。今の自分の滑りは、SHADOW FITがあってこそ成立しています」


スタイルで証明する、新たな常識

現在、ハーフパイプシーンは回転数のインフレが加速している。1440は当たり前、1620、さらにはトリプルコークへと技の難易度は上がり続けている。そんな中で琉聖は回転数と同じくらい、あるいはそれ以上に“スタイル”と“高さ”に重きを置く。
 
彼が目指すのは、誰も真似できない唯一無二の滑りだ。 ガチガチのギアで機械的に回るのではなく、足首の自由度を活かした独創的なグラブ、スムースな着地、そして圧倒的なエアの高さ。
 
「『パイプ=硬いギア』っていう固定概念を持っている人は多いと思います。でも、足回りが自由でも、ブーツが柔らかくても、ここまで飛べるし、戦える。僕の滑りで、それを証明したいですね」

 

山田琉聖

 

2026年、ミラノ・コルティナ五輪という世界中が注目するその大舞台でのドロップインを狙う山田琉聖。彼が描く美しい放物線は、SHADOW FITというテクノロジーが、単に「快適なギア」であるだけでなく、世界と戦うための「武器」であることを証明してくれるはずだ。

text: Yuto Nishimura
photos: Salomon

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