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この1年で急成長した無名のダークホース。16歳で4方向1980を操る木村悠斗という存在
2025.10.19
スイス・サースフェーで行われている「THE STOMPING GROUNDS」。そのトレーニングキャンプにおいて、16歳の木村悠斗が急成長を遂げている。2023年1月、兄・葵来がFIS(国際スキー・スノーボード連盟)ワールドカップ(以下、W杯)初出場で3位を獲得したあの大会からおよそ2年。弟の悠斗は、すでに次のフェーズへと踏み出している。
昨シーズン、国内外のFISアジアカップで圧倒的な結果を残した。「COWDAY SLOPE」では準優勝、中国でのアジアカップでは1、2戦ともに制覇。その結果、シーズン年間王者に輝き、今シーズンのW杯出場を決めた。
しかし、彼の真価はリザルトだけでは測れない。
THE STOMPING GROUNDSで悠斗は先に4方向の1800を成功させると、そこからわずかの期間で、すべての1980までを成功させている。同一シーズン内で4方向の1980をメイクしたライダーは、世界でもほとんどいない。
悠斗のコーチを務める西村大輔は、彼の実力をこう語る。
「現在、2方向の1980を持つ選手は増えてきました。でも4方向すべてをメイクしているのは、おそらく(長谷川)帝勝くらい。悠斗は16歳にしてその域に迫っている。しかも、どの方向も完成度が高く、メイクまでに要する本数も非常に少ない。大会という場で、4方向1980を武器として戦える選手は現状ほとんどいません」
この「4方向」という概念は、いまのスロープスタイルとビッグエアにおいてもっとも重要な要素だ。同じ回転数でも、ノーマル/スイッチスタンス、フロント/バックサイドのすべてを自在に使い分けることが、近代フリースタイルにおけるトップライダーの必須条件となっている。
「この1年で急激に成長したため、まだ彼のことを知らない人も多くいる」と西村は続ける。ミラノ・コルティナ五輪出場に向けて、帝勝、葵来、荻原大翔、木俣椋真、宮村結斗といった層が厚すぎる日本勢に食い込む。代表枠は4つ。誰もがメダル圏内にいるだけに、残り3ヶ月あまりで熾烈なバトルが繰り広げられる。
まだ無名の16歳が、世界の最前線を射程にとらえ始めた。木村悠斗が伏兵でいられる時間は、そう長くないのかもしれない。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)