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氷河の下から現れた“時を忘れたリフト”。オーストリア・ダッハシュタイン氷河が語る現実
2025.08.21
かつては永遠と考えられていた氷河が、今年もまた後退を続けている。
ヨーロッパのアルプスが猛暑に揺れるこの夏、オーストリア・ダッハシュタイン氷河で、かつて厚い氷に埋もれていた古いリフトの骨組みが姿を現した。「POWDER」や「SNOW BRAINS」など、複数のスノーメディアが報じている。
1969年に設置され、1970年代にはサマースキーに利用されていたリフトの残骸だ。70年代後半に埋没してしまったが、約50年の時を経て再び露出。氷河が後退し、埋もれていた鉄骨が再び日の目を浴びたこの光景は、気候変動の進行を否応なく突きつけてくる。
ダッハシュタインといえば2015年6月、バスティ・リッティグが84mの超ロングレールを抜いた場所だ。2016年にサマーシーズンの営業を終了し、2022年には冬の営業すら断念。氷河に大きな亀裂が走り、リフト運行の安全が確保できなくなったためだ。現在も観光用のゴンドラや展望台は動いているものの、スノーリゾートとしての役割はほぼ幕を閉じている。
研究者によると、この地域の氷河は1856年をピークに面積の4割以上を失い、2006年以降は質量の3分の1が消失したという。近年では、夏の間に1日で10cmも氷が溶け落ちることがあるほど。数十年以内にダッハシュタイン氷河が完全に姿を消す可能性も指摘されている。
氷河の消失は悲しい現実だが、いっぽうで、氷の下に眠っていた“スノーカルチャーの歴史”が表に出てくるという皮肉な側面もある。過去と現在をつなぐ遺物といえるだろう。
ダッハシュタインは今もハイキングや観光の名所として賑わっているが、氷河を舞台にしたスノーボードカルチャーは、歴史のページの中に閉じ込められつつある。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)