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FEATURE
藤森由香が大絶賛した雪質と施設を誇る「スキージャム勝山」家族旅【前編】世界屈指のクリーミーパウダーとツリーラン
2025.02.18
そこに待ち受けていたのは、彼女たちの想像をはるかに超えた雪質を誇るディープパウダースノー、そして、世界レベルの雪山を知るふたりにとっても滑りごたえ十分なツリーランコースだった。
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ホテルハーヴェスト スキージャム勝山に到着。ゆっちにとって現役復帰となる2泊3日の子連れシューティングがスタート
世界屈指のクリーミーパウダーが大量に舞い落ちるスキージャム
「軽すぎず湿った感じもなく、ほどよくクリーミーな雪質でした。パウダーの上を浮くような感じで滑りやすく、板がよく走りましたね。下からくるレスポンスっていうか、ボードを踏むと雪の圧みたいなものを感じられるんですけど、湿り気はまったくない。ヨーロッパで滑る雪質と比較しても一番よかったって、ヘンリーも言っています。昨シーズンは出産のためほとんど滑れませんでしたけど、ここ数年ではベストパウダーでしたね」
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ゆっちにまとわりつくようなスプレーが雪質のクリーミーさを表現している
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クリーミーな雪質だからこそハイスピードが出せる。その結果として特大スプレーが巻き上がった
世界中の雪山を滑り倒してきたゆっちとヘンリーは、スキージャムの雪質に太鼓判を捺す。出産後、昨シーズン終盤に雪上復帰を果たし、雪解けとともにリハビリに集中した結果、今シーズンはオーストリアでパークライディングの感触を確かめながらスタート。プロスノーボーダーとして初の仕事復帰が本トリップとなったわけだが、いきなり極上のパウダースノーを呼び寄せた。
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ゆっちの髪の毛を見れば、撮影当日が大当たりだったことがわかるだろう
「噂では少し湿った雪だと聞いていた」というゆっちに対し、4年前に初めて同リゾートを訪れて「日本海が近いのになぜ雪が軽いのか?」という疑問を抱いていた筆者は昨シーズン、その理由について「スキージャム勝山に秘められたポテンシャルを雪山を知り尽くす中山悠也が引き出す」の記事内でスノーボードに精通する気象予報士に聞いていた。改めてお伝えすると、スキージャムの北西方向に浄法寺山(標高1,053m)がそびえるため北西風が入りづらく、北東方向に岐阜・白山から流れる手取川や手取湖があるため、その渓谷に沿って北東からの風がスキージャムが位置する法恩寺山(標高1,357m)によく吹くそうだ。この方向には白山を含めた多数の山々が存在するため、それらを越える間に大気中の水分が飛ばされる。山々に囲まれた好立地のおかげて、局地的に内陸のような気候になっているのだ。
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木々に降り積もった雪が豪雪地帯であることを証明している
「2日間とも一日を通してずっとパウダーでした。底当たりすることもなく、しっかり積もってくれましたね。BACKSIDEもってる!」と、撮影日の2日前からずっと降雪が続いていたため、ゆっちからお褒めの言葉をもらった。本記事の取材を終えた翌週、スキージャムはさらに大量の降雪に見舞われ、ツリーランコースがあるイリュージョンサイトは除雪やリフトの安全確保のため、1週間以上に渡りクローズを余儀なくされることに。豪雪により滑ることが許されないほど降り続けたのだ。
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息のあった夫婦パウダーライディング
今シーズンは結果としてエルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態と見られているが、ラニーニャ現象に近い状態であることから寒気が流入しやすい。そのうえで、JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)と呼ばれる連なった雪雲が流れ込み、日本海の海面水温が平年よりも2〜3℃程度高いことから水蒸気がたっぷりと補給された状態になっている。このことにより、スキージャムに大量のパウダースノーが舞い落ちているということなのだろう。
時に災害をもたらすだけに手放しで喜ぶことは難しいが、我々スノーボーダーにとっては恵みであり、ゆっちたちが大絶賛するパウダースノーがスキージャムにはまだまだ降りそうだ。残りのシーズン、世界屈指のクリーミーパウダーを堪能できる可能性は十二分にある。
パウダーライドだけでなくフリースタイルスキルも磨くことができるツリーラン
本トリップ初日、真っ先に目指したのは、90年代からフリースタイルシーンの第一線で活躍していたレジェンドライダーのひとり、デイブ・ダウニングが監修した「パウライド ツリーランBコース」。最奥のイリュージョンサイトに位置するため、ゲレンデのボトムからだとクワッドリフトを3基とトリプルリフトを1基乗り継がなければならない。昨シーズンは雪不足のためオープンできなかったが、今シーズンは万全の状態で僕たち撮影クルーを受け入れてくれた。
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ここがツリーランBコースの入口。看板にあるようにクローズは全日13時なので、翌日もリセットされている可能性が高い
「木の間隔がほどよくて、スピードを出して滑れる斜度があったので、深い雪でもスピードを出せました。マッシュがたくさんあるようなツリーではありませんが、すごく気持ちのいいターンができるコース。出口まで誘導してくれるサインがしっかり掲示されていて迷うこともなく、安心して滑れました。この心の余裕はツリーランを楽しむうえで大きいですね」
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ゆっちのスピード感が伝わってくるショット
ゆっちはその言葉どおり、ハイスピードでツリー内を駆け抜けていく。復帰直後とは思えない、華麗なるパウダーライディングだった。そして、ハイスピードでパウダースノーを切り裂き、特大スプレーを上げまくるヘンリー。ツリーランBコースの最大斜度は37°を誇る。ふたりはカメラを意識することなく、何度もフィストバンプ(グータッチ)を交わしていた。BURTON(バートン)の大先輩にあたるデイブが監修したツリーランコースに、前章で綴った極上パウダースノーが溜まっている。ふたりが口を揃えて「パーフェクト!」と絶賛するツリー内は、筆者も含めて一般スノーボーダーでも滑ることが許されている公認コースなのだ。
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互いの人間性だけでなく、ライディングに対しても敬意を払い合う素敵な夫婦関係
ヘンリーにも聞いてみると、はじめての雪山に赴いてヒットポイントを探しているとき、面白そうなスポットを見つけても大抵の場合はコース外で行けないことが多いとしたうえで、スキージャムで最初に見つけたスポットは、このツリーランBコース内にあったそう。100%安全ということはもちろんないが、こうした魅力あふれるエリアにヘルメットを着用するだけで入ることができるスキージャムの懐の深さに感銘を受けていた。
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ゴン降りでも林の中に入れば視界が確保できる。これもツリーランのいいところ
イリュージョンサイトには、あとふたつ開放されたツリーランコースが存在する。「ノービスライド ツリーランCコース」は緩斜面でビギナー向けなのだが、デイブ監修のツリーランコースが目玉のはずなのに“B”と名づけられていることに違和感を覚えたという読者諸兄姉もいるかもしれない。そう、「フリークライド ツリーランAコース」もかなり魅力的。地形に富んだフリースタイルパラダイスだったのだ。
「(パウダーの)競争率は高そうですけど、地形が面白かったです。斜度変化に富んでいて、ジャンプしたりバンクを使って遊んだり。パックされたらされたで、そうした地形を活かして楽しめるコースでした。クロスコースみたいな(笑)」
ゆっちは生粋のフリースタイラーでありながら、トリノ(2006年)、バンクーバー(2010年)、ソチ(2014年)と3大会連続スノーボードクロスでオリンピックに出場している。そんな彼女にツリーランAコースを滑らせたら、速いのなんのって。その流れの中でレイバックまで決めるのだから、さすがはトッププロ。念のため補足しておくが、4大会連続出場となった2018年の平昌五輪ではフリースタイルに転向し、ビッグエアで7位入賞を果たしている。
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荒れたアプローチをものともせずにハイスピードで突っ込んでいくゆっちの滑走力
「パウダースケートパークだね。遊びがいのあるコースだったよ」と、ヘンリーはひと言でツリーランAコースを総括してくれた。まさにそのとおり。朝イチでパウダースノーが降り積もっていればもちろん最高だが、斜度のあるツリーランBコースで気持ちよくパウターンを刻み、仮にパウダーが喰い荒らされていたとしても、ツリーランAコースのギャップやバンク、沢地形を楽しみながらフリースタイルスキルに磨きをかける。そんなルーティンで、スキージャムを滑り倒してみてはいかがだろう。
愛娘を感じながらライディングに集中できる安心感
「咲心ちゃんが産まれてから初めてヘンリーと一緒にパウダーセッションができた今回のトリップは、私の中でとても価値あるものでした」
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ゆっちとヘンリーがシンクロした瞬間。この写真を見てしまったら、スキージャムに行かないわけにはいかない
極上のディープパウダーで画を残すというプロスノーボーダーとしての仕事を終えたゆっちは、急いでボトムまで滑り下り、ヘンリーとともに託児所に預けていた咲心ちゃんと再会。目にたっぷりの涙を浮かべながらも安堵の表情を浮かべる咲心ちゃん、そして、初めて託児所を利用する不安がありながらも、プロとしての仕事を全うしたゆっち。これもすべて、スキージャムに託児所があってこそ成り立った。
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咲心ちゃんの表情がすべてを物語っている
「咲心ちゃんが産まれてから初めての撮影だったので、私にとってもチャレンジでした。そんな中で託児所というサービスを利用させていただいて、私はプロとしてのお仕事ができる環境を得られたことは、ものすごくありがたかった。託児所のスタッフたちがとても親切だったので、娘を安心して預けることができました」
スキージャムの「ジャムキッズクラブ」には、1歳から6歳までの室内託児と、3歳から小学3年生までの雪遊びクラスが用意されている。9時からなので、ゲレンデのボトムから延びるバラエティークワッドリフトの運行開始時間には間に合わないが、降雪時はイリュージョンサイトのリフト営業が除雪作業などにより遅れることもあるので、撮影日は問題なくノートラックのパウダーバーンにありつけた。90分間で5,000円が基本料金となり、以降30分延長ごとに1,000円が加算されていく。詳細についてはジャムキッズの公式ページでチェックしていただきたい。
「本音を言うと、今シーズンは無理だろうなと思っていました。両親に頼んで(撮影に)行くことはできるかもしれないですけど、ゲレンデに預けられることが私にとってすごく大きくて。心配になったらすぐに咲心の顔を見に行けるから。趣味であり仕事でもあるスノーボードを夫婦でできた今回のトリップは、とても貴重な機会でした」
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後編へつづく
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藤森由香(ふじもり・ゆか)
生年月日: 1986年6月11日
出身地: 長野県長和町
スポンサー: BURTON、ANON、ABSOLUTPARK、GALLIUM WAX、MSR
ヘンリー・ジャクソン
生年月日: 1981年5月30日
出身国: イギリス
スポンサー: CAPITA、VOLCOM、DRAGON、UNION、DEELUXE、COAL、TRANSFORM
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Kenta Nakajima