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STEP ONは脱着が早くてラクなだけじゃない。足が360°自由に動かせる新たな世界へ。STEP ON ESTの実力を知る
2024.12.30
これまではスペシャルなモデルとしてSTEP ON ESTを発売してきたように、水面下で開発が進められてきたわけだが、8シーズン目を迎えた今季、いよいよ本格参入となった。念のため説明しておくと、ESTとはプラスチックなどの硬いベースプレートではなく、フットベッドと呼ばれる柔らかい素材が敷かれている、アレだ。
まずはその見た目。これまでのRe:Flexタイプのものとはまったくの別物。Re:Flexが直線的なアウトラインなのに対し、ESTは流線型だ。しかも、ストラップ式のESTの構造とも完全に異なるではないか。で、実際に手にしてみると……これまでのBURTONバインディングの中で一番軽い!?(個人的感想)と思うくらい軽く感じた。
STEP ON誕生から7年が経過し今シーズン、新たなパラダイムシフトが起こるのかもしれない。そんな期待を胸に筆者(編集長)は、シーズン序盤から降雪に恵まれた12月某日、雪山へ赴いた。
そもそもTHE CHANNELとESTってなんだっけ?
最初にお伝えしておかなければならない。STEP ONにかぎらずESTマウンティングシステムのバインディングは、BURTONのボードに搭載されているTHE CHANNELにしか取り付けることができない。「なんだよ、オレBURTON乗ってねーし」なんて声が聞こえてきそうだが、前述した筆者の言葉を信じて読み進めてほしい。
まず、これまでのSTEP ONでスタンダードだったRe:Flexとは、一般的なバインディング同様、ベースプレートのセンターにディスクが搭載されている。ノーズからテールにかけてボードのセンター部分に1本のレールが埋め込まれているTHE CHANNEL、ビス穴が空けられた他ブランドの4×4などのインサートホールすべてに装着可能だ。
いっぽうで、ESTとはバインディングの両サイド、足の内側と外側の2箇所でボードに固定するため、THE CHANNELにしか取り付けることができない。THE CHANNELのメリットは、左右へスライドできるためビス穴の縛りなくスタンス幅を自由に設定でき、かつ、バインディングの両サイドを前後させることでスタンスを決定できるため、角度も3°刻みなど関係ない。もちろん、センタリングも自在だ。常識の範囲内であれば無限にスタンスを調整できるというわけ。
そのうえで、冒頭で述べたようにバインディングのベースプレート部分に硬い素材がないことから、ダイレクトにボードに乗っているようなフィーリングを味わえる。足裏感覚が研ぎ澄まされるだけでなく、フットベッドの効果によりボードのフレックスにバインディングが連動するのだ。
本記事の中身を理解するうえでとても大切な要素になるので、改めて、BURTON JAPANのプロダクト・ストラテジー・マネージャー、藤村和正氏に話を聞いてみた。
「STEP ON ESTの前にTHE CHANNELについてですが、ボードのセンターに穴を空けているところがポイントです。人間の身体に例えると背骨の部分がTHE CHANNELになるので、そこを軸にボードのフレックスやトーションを効かせることができます。かつての3Dや一般的な4×4よりもボードをキレイにしならせることができるのです」
なるほど。これらを大前提に、実際にSTEP ON ESTに乗ってみた。ストラップ式のESTバインディング、Re:FlexのSTEP ON、どちらも持っている。だが、これまで味わったことがないくらいの自由さを感じた。硬いバーンでは非常によくわかる。若かりし頃、某国産ブランドのボードをテストさせていただいている時期があったので、ハードパックなバーンでボード性能などの違いは理解できるつもりだ。
しかし、ライディングスキルが未熟なことも含め、パウダーを滑っているときはぶっちゃけ何も感じないと思っていたのだが……。新潟・妙高エリアの踏みごたえあるやや重めのパウダースノーだったからか、パウターンをしているときも足回りの自由さを感じられたのだ。筆者は下手クソながら波乗りもするのだが、BURTONチームの降旗由紀が「サーフィンに近い感覚」と話していたことに合点がいった。
その、気になる秘密は、次章で詳しくお伝えする。
ボードの上で足を360°自由に動かせる新時代の幕開け
ストラップ式のESTバインディングでもRe:FlexタイプのSTEP ONバインディングでも感じたことがない、未知なるフィーリングだった。ターンとターンのつなぎがかつてないほどスムースにできているような感覚。また錯覚かもしれないが、パウターンの後半にかけて後ろ足へ荷重していく動きが滑らかにできているように感じ、いつもよりキレイにスプレーが上がっているような気がした。
「ストラップ式のESTバインディングは外側にプラスチック製のフレームがあって、その内側にフットベットを配置しています。それに対してSTEP ON ESTは、フレームの下にフットベッドを配置しているのです。ここが決定的な違いですね」
藤村氏の言葉を聞いて腑に落ちた。これまでのESTだとノーズやテール方向への左右の動きがフレームにより制限されていたわけだが、STEP ON ESTの場合、それがない。従来のバインディングよりも可動域が圧倒的に広いということ。だからこそ自由に足を動かせているように感じられ、状況に合わせてこれまで以上にいい位置に乗れるので、普段よりもボードをしっかり踏めているように感じたのだ。それでいて、硬いフレームがないためボードのフレックスが損なわれない。
「ボードのフレックスがキンク(折れ曲がり)しません。あと、先ほども言ったようにフレームの下にフットベッドがあることで、ストラップバインディングでもRe:FlexのSTEP ONでも、これまではフレームの中にブーツがあって足を動かしていましたが、それでは成し得なかったブーツとバインディングが連動する一体感を実現しました。だから自由さを感じるんだと思います。従来のバインディングだと、ノーズ/テール方向への動きはフレーム素材のフレックスに依存するしかありませんでしたが、STEP ON ESTの場合はフットベッドの柔らかさや厚さによってその感覚を得ることができます。なので、ノーズ/テール方向だけでなくトウ/ヒールサイドへの動きも含め、360°の方向へ動きやすくなっているのです。それが、踏みごたえを感じられる理由ですね」
この言葉を聞いて、にわかに信じがたいという人もいるかもしれない。しかし、乗ればわかる。前章で綴った「これまで味わったことがないくらいの自由さ」がこれだ。さらに、踏む動作でボードコントロールできるからこそ、パウダーライディング時でもそのよさを感じられた。
「両足を内側に傾斜させることで安定性や操作性を向上させるために、カントを入れる人がいるじゃないですか。STEP ON ESTはバインディングとボードの接地面がすべてソフトなフットベッドなので、踏み込むことで自由にカントを入れている状態に近くなります」
固定されているのに足を360°自由に動かせる。ご納得いただけたのではないか。
足裏は柔らかいのにレスポンス性に優れるという素晴らしき矛盾
前章まで読み進めると、「それじゃ柔らかすぎて高速域じゃ無理だろ!」というツッコミが入りそうなもの。でも実際に乗ってみると、むしろレスポンスはよく感じられた。
「バインディングの裏側を見ればわかりますが、センター部のXになっているパーツには薄くプラスチックを融合して補強しています。さらにカカト側に2箇所硬いパーツを搭載しているのですが、そこがライディング時にもっともプレッシャーがかかるエリア。最近は減りましたが、ライダーがボードを折るときのほとんどがこの部分です。これらの効果により、足裏全体が柔らかいのにレスポンス力に優れています」
「あと、バインディングの両サイドに配した青いパッドは、スケートボードのトラックにあるブッシュゴムのような素材ですが、このクッション性がありながら強度も兼ね備えたスペーサーを入れることによって、特にノーズ/テール方向への動きを抑制しています。まさしく、高速域でもしっかりと踏めるようにするためです」
一見、衝撃吸収性に優れているのでは?と勘違いする読者諸兄姉もいるかもしれないが、足裏部分に搭載されているわけではない。また、今後はこの部分の硬さを選択できるようにすることで、より幅広いライディングフィールを提供しようという目論みもあるそう。
加えて、これは個人的な意見になるが、STEP ONはカカト側に位置するヒールクリートでの接続が生命線だ。ストラップバインディングでは考えられない話だが、この1点がしっかり固定されているからこそ、フレームレスのSTEP ON ESTが誕生したのではないか。また、STEP ONの特徴として、ヒールクリートとツマ先の両側2箇所にあるトウクリートの計3点で固定されているのだが、いい意味でルーズさを感じられる遊びがある。
足が固定されているのに360°自由に動かせるというパラダイムシフトは、STEP ONシステムの賜物なのかもしれない。
さいごに
私事で恐縮だが、過去に左ヒザの大腿骨外踝を粉砕骨折した経験があるため、その後遺症でいまだ可動域に制限があり、痛みも伴う。なので、荒れた状態のバーンで滑ることや長時間のライディングが困難なのだが、本記事の撮影に訪れた日は朝イチから滑り出し、もちろんランチタイムは挟んだが、気づけばリフト営業時間の終了間際まで滑り続けていた。
藤村氏の言葉にあったように、バインディングのフレームがボードに直接触れていることで、ボードにもバインディングにも相当な負荷がかかっている。そしてその衝撃は、身体にダイレクトに伝わるわけだ。しかし、STEP ON ESTはフットベッドの効果によりボードのフレックスに合わせてバインディングがたわみ、THE CHANNELのおかげでトーションもフレックスも美しくしなる。
そのうえで、繰り返しになるがボード上で360°自由に足を動かせるのだ。だからこそ、乗り手の意思がボードに満遍なく伝わる。それでいて、身体に優しい。
さあ、STEP ON ESTという新たな世界の扉を開けてみてはどうだろう。