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魂が震える滑りで平野歩夢が圧勝。15歳 清水さら2度目のW杯で初優勝。日本人5人が表彰台を射止めたW杯ハーフパイプ速報
2024.12.21
ミュージシャンが心を震わせる生きた音楽を奏でるように、俳優が視聴者のハートに突き刺さる名演技を披露するように、今大会の平野歩夢の滑りは観ている者の魂が揺さぶられるような圧巻のルーティンだった。
FIS(国際スキー・スノーボード連盟)ワールドカップ(以下、W杯)のハーフパイプ第2戦が米コロラド州カッパーマウンテンで行われ、前述の常軌を逸した滑りで歩夢が見事優勝。2位には前回の北京大会を制した戸塚優斗、3位には平野流佳と、北京五輪銀メダリストのスコッティ・ジェームス(オーストラリア)やFSトリプルコーク1620を操るイ・チェウン(韓国)らを従えて、日本人ライダーたちが表彰台を独占した。
ひとり3本のランを行いベストポイントで争われるおなじみのルールのもと、1、2本目を決めることができず後がなくなった歩夢の3本目。FSトリプルコーク1440トラックドライバー→CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1260インディ→BSダブルコーク1260ウェドル→FSダブルコーク1080トラックドライバーを圧倒的なエアの高さを出しながら決めたのだ。今大会のハーフパイプはところどころバンピーな箇所があったようで、BSダブルコーク1260の着地後、歩夢もバランスを崩しかけたが、そこはさすがのテクニックでリカバリー。それがなければ北京五輪で金メダルを獲得したときのように、ラストヒットはFSダブルコーク1440だったのかもしれない。それでも97ポイントという高得点を叩き出した。
前回の北京大会はパイプのサイズが今大会よりも大きいため滞空時間が生み出しやすく、スコッティと優斗、チェウンもトリプルコークに成功していたのだが、今大会では歩夢とチェウンのみがそれをルーティンに組み込んだ。パイプのサイズによって繰り出すか否かを判断しなければならいほどのリスクが潜んでいるトリプルコークなのだが、北京五輪前から絶対的にファーストヒットで放ち続けている歩夢。そのブレない姿勢、迫力満点の圧倒的なエアの高さ、スピンのキレ、トリックのスタイリシュさ、そして、肋骨骨折など満身創痍の状態でも120%以上の力で滑り切る、その精神力。冒頭で綴ったように、魂が揺さぶられる滑りだった。
今大会をライブ配信していたJ SPORTSで解説を務めさせていただいていた筆者は、表彰式を終えた直後、歩夢と言葉を交わすことができた。やはり、ケガの状態はよくないようで、痛み止めでなんとか滑れる状態なのだそう。前回大会ファイナルの3本目、2ヒット目のCABダブルコーク1440でボトムに弾かれてストンプして耐えていたのが印象的だったので聞いてみると、やはりそれでケガの状態は悪化していたとのことだった。練習ではほとんど何もできていなかったにもかかわらず、この世界最高峰ルーティンを完遂させたわけだ。
2位の優斗にも大会直後に話を聞くことができたのだが、「これまで以上に自信を持ってドロップインできている」と語ってくれた。北京大会で優勝したときもそうだったが、まさにそれが伝わってくる立ち振る舞いであり、滑りだった。スイッチBSダブルコーク1260インディ→CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1260インディ→BSダブルコーク1260ウェドル→FSダブルコーク1440テールという高難度なルーティンをクルーンに決めて、94.75ポイント。本当はラストヒットで、北京大会で優勝したときと同じくFSトリプルコーク1440を披露したかったのだと、大会直後に吐露してくれたのだが、歩夢同様にボトムでバランスを崩してしまい急遽トリックを変更したうえでのFSダブルコーク1440で、しかもテールグラブだった。リカバリー能力の高さを示した格好だ。
3位に入った流佳も、1、2本目はミスが目立ってしまい3本目にすべてを賭けた。ファーストヒットではスイッチBSダブルコーク1080にスイッチジャパンを加えて一瞬、動きが止まったかのようなスタイルで時空を制すると、BSダブルコーク1260ウェドル→FSダブルコーク1440インディ→CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1260インディを見事に成功させて92.75ポイントをマーク。さすがは表彰台の常連ライダーという強さをラストランで発揮した。
重野秀一郎はFS1620を含めたルーティンを成功させるもポイントを伸ばすことができず、山田琉聖は北京大会で披露し世界中を震撼させたダブルマックツイスト1080から入るルーティンで勝負に挑むも、3本とも決めることができなかった。
女子は2度目のW杯参戦となった15歳の清水さらが初優勝を飾るという快挙を成し遂げた。しかも、今大会はUS GRAND PRIXとW杯の併催だったこともあり、平昌、北京と2大会連続オリンピックを制している女王、クロエ・キムが参戦したうえでの頂点だった。
さらは1本目からFS900テール→BS900ウェドル→FS720インディ→ハーカンフリップ・ウェドル→FS540インディ→BS540ウェドルを決めて90.5ポイントを記録。2、3本目はFS1080にトライするも着地に嫌われてしまったが、この1本目のポイントを女王含め、誰も上回ることができなかった。
大会直後のインタビューでさらは、「FS1080を成功させたルーティンでクロエに勝ちたかった」と力強く語ってくれた。むしろそれがなくても勝てたわけなので、大器の片鱗をうかがわせる結果となった。
3位には小野光希が名を連ねた。「今シーズンからジャッジがオリジナリティのある滑りを重視している」と分析していると光希はリモートインタビューで教えてくれたのだが、その言葉どおり、北京大会からCAB900→スイッチBS540のつなぎにこだわっていた。1本目、FS900テール→BS540ウェドル→FS720インディ→CAB900ステイルフィッシュ→スイッチBS540インディを決めるも、CAB900の着地後に後傾になってしまい、クリーンメイクとはいかなかった。それでも88ポイントをマークし、2、3本目でより完成度を高めて逆転優勝を狙うも、2本とも合わせることができなかった。
北京五輪銅メダリストの冨田せなはFS1080を決めるも、全体のレベルが高く8位に甘んじた。クロエはBS360からスイッチメソッドにつなぎ、その後、バック・トゥ・バック1080を含む高難度なルーティンを披露するも、エアと完成度を高めることができずに4位。昨シーズン出場した2戦とも表彰台を逃しており、ついに女王陥落ということなのか。ミラノ・コルティナ五輪に照準を合わせるために、ショーン・ホワイトが新設したリーグ戦「THE SNOW LEAGUE」への出場を見合わたとのことなので、あと1年余りでのクロエの復活劇が期待される。
2002年のソルトレイクシティ五輪ハーフパイプ男子はアメリカ勢が表彰台を独占した。その後もショーンがトリノ、バンクーバー、平昌とオリンピック3大会で金メダルを獲得。クロエに女王の座を明け渡したケリー・クラークも含め、男女ともにアメリカはパイプが強かった。その代表選考を兼ねたUS GRAND PRIXの表彰台を男女ともにアジア勢が独占したというニュースは、フリースタイルスノーボーディングの歴史を知っている者であれば驚きを隠せないはずだ。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: FIS SNOWBOARDING
男子結果
1位 平野歩夢(日本)
2位 戸塚優斗(日本)
3位 平野流佳(日本)
4位 スコッティ・ジェームス(オーストラリア)
5位 イ・チェウン(韓国)
6位 重野秀一郎
10位 山田琉聖(日本)
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女子結果
1位 清水さら(日本)
2位 ツァイ・シュートン(中国)
3位 小野光希(日本)
4位 クロエ・キム(アメリカ)
8位 冨田せな(日本)
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