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片山來夢のチーム加入からFORUMの日本復活まで話題満載。カルチャーとコミュニティを重んじる米プロショップ「TACTICS」が札幌上陸
2024.11.22
現在は同州に3店舗を構え、今年5月にはワシントン州シアトルに4店舗目を出店。大型のオンラインストアも運営するなど成長・拡大を続けているなかで、TACTICS初となる海外出店に踏み切ることになった。さる11月2日、北海道・札幌に「TACTICS SAPPORO」がグランドオープンを果たしたのだ。
その前日、レセプションパーティーが行われるということで、いざ札幌へ。TACTICS本社のバイイング/マーチャンダイジングディレクターを務めるオースティン・ダル・モリンが来日しており、TACTICS初の日本人としてグローバルチームに加入した片山來夢の姿もあった。長年に渡り日米のスノーボードシーンを橋渡しする存在である元プロスノーボーダーの高橋玲も含めた3人に、TACTICS SAPPOROの展望について話をうかがった。
TACTICSが25年に渡って育んできた横乗り愛、そして、同ショップと來夢の運命的なめぐり合わせなど、興味深いトークバトルが繰り広げられた。
札幌に上陸したオレゴン発の大型プロショップ「TACTICS」とは?
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE: TACTICSのバイイング/マーチャンダイジングディレクターを務められているということですが、現在に至るまでの経緯について教えてください。
オースティン・ダル・モリン: 私はスノーボーダーでありスケートボーダーでもあるので、ユージーンの大学に通っていた時代、必然的にTACTICSに足を運ぶようになりました。大学卒業後はポートランドに本社があるNIKE(ナイキ)に就職して、スケートボーディングとスノーボーディングの部署に12年間勤務。インターナショナル・セールスディレクターを務めていたときに、日本ともいろいろなコネクションができましたね。その流れで、TACTICSの創設者であるボブ(チャンドラー)とマット(パットン)がリタイヤするという話になったとき、現在のCEOであるデューガン(ベイカー)とともに引き継ぐことになったんです。デューガンは同じNIKE SBで働いていたメンバーのひとりで、かなり多くの時間をともにしてきました。NIKE時代、TACTICSは取引先のひとつでしたが、ボブとマットが培ってきた横乗り愛にあふれるショップの偉大さを改めて痛感させられたものです。私自身TACTICSに育てられたわけですから、その価値観やコミュニティを大切にしていきたいと強く思いました。
BACKSIDE: TACTICSとはどういうプロショップなのか、我々の読者である日本人スノーボーダーに向けて説明してください。
オースティン: 1999年にユージーンで始まり、25周年を迎えました。スノーボードとスケートボードのコアなプロショップであることはもちろん、オンラインストアもしっかりと運営しています。250ブランド以上を取り扱う規模でやらせていただいていますが、ローカルコミュニティとの接点を非常に大事していることが特徴です。ローカルライダーたちをサポートするのは当然として、イベントにも積極的に参加してコミュニティを盛り上げることに尽力しています。「LEGENDARY BANKED SLALOM」や「DIRKSEN DIRBY」といった歴史あるイベントや、今シーズンは「DEW TOUR」に代わって行われる「ROCKSTAR OPEN」というビッグイベントまでサポートする予定です。コアという言葉を聞くと近寄りがたいイメージを抱かれるかもしれませんが、私たちはすべての人々を受け入れています。「誰もがボードに乗る機会を持つべき」という考えのもと、TACTICSは運営しているんです。新しい人がお店に来られたらスノーボードやスケートボードのルーツを教え、それぞれのカルチャーをしっかりと伝えることに注力しています。
BACKSIDE: 初の海外進出先として札幌を選んだ理由はなんですか?
オースティン: 札幌とポートランドは姉妹都市なんです。それぞれにキレイな街があって、その周囲には大自然があり、グランジな雰囲気で、さらに言えば、ポートランドはストリップクラブが有名なのに対し、札幌にはすすきのがあるじゃないですか(笑)。ビールや食べ物がおいしいところも共通していますね。それぞれの街に近しい個性を感じます。ロサンゼルスやニューヨークにTACTICSが出店していないのは、パシフィックノースウェストの雰囲気にこだわっているからであり、札幌はうってつけの場所です。これからはパシフィックノースウェストから北海道へ、その反対も然りといったように、パシフィックノースウェストと北海道をつなぐ架け橋のようなショップに成長していきたいですね。
TACTICSグローバルチームに加入したのは片山來夢の定め
BACKSIDE: 片山來夢をグローバルチームに招聘した理由について教えてください。
高橋 玲: 來夢のことは昔からよく見ていて、個人的にも好きなライダーのひとりですし、オレゴンによく滞在していることも知っていました。そのうえで、TACTICS SAPPOROの運営を行う(株式会社)ジャックの本社は静岡なんです。來夢の地元じゃないですか。彼のことをよく知っているジャックのスタッフも多くいるし、TACTICSライダーのベン&ゲイブ(ファーガソン)兄弟やカーティス(シスゼック)と來夢は仲がいいし。理由がなにかというよりも必然でしたね。
BACKSIDE: 來夢から見たTACTICSはどんなプロショップですか?
片山來夢: ポートランドやベンドに行く機会が多いのですが、仲のいいライダーたちがみんなTACTICSのステッカーを貼っているので気になり始めて、ショップだということを知ってからはよく通うようになりました。3年くらい前にオレと(大塚)健と(伊藤)藍冬で(マウント)フッドに行ったとき、リフト1日券がけっこう高くなっていたので、天気が悪い日は節約する意味で山に上がらないようにしていたんですけど、その日はTACTICSに行ってその分だけ買い物しちゃうんです(笑)。普通のスケートショップとは品揃えが違って、魅力的なアイテムが多いですね。
BACKSIDE: そこからどのようにしてライダー契約に至ったのですか?
來夢: デューガンもオースティンも玲くんもそうですけど、ライダーの意見にしっかりと耳を傾けてくれるんですよね。そういうコミュニケーションを深めていくことで、よりTACTICSが好きになりました。しかも、ジャック(オーシャンスポーツ)はオレが小学校に入る前から通っていたショップなんですよ。今でも月に1回は実家に帰るんですが、その都度ジャックに寄っていますね。父さんがずっと通っていたこともあって、スノーボードを始めたのもジャックだし、ジャックがあったから今が自分があると言っても過言ではありません。
玲: もう運命なんですよ(笑)。それで、來夢が日本人として初出演した「THE BOMB HOLE」(アメリカの人気ポッドキャスト番組)のなかで好きなレストランの話になって、「WILD ROSE」っていうベンドにあるお店の名前を挙げているのをデューガンやオースティンが聴いていたんです。それで、「オッケー、じゃあ來夢との契約条件に、その店は食べ放題って入れておくから!」みたいな感じで契約に至りました(笑)
來夢: タイ料理のお店ですね。めっちゃウマいんですよ。オレがアメリカで一番好きなレストランです。ちなみに、今年の結婚記念日はそのレストランで過ごしました(笑)
TACTICSが日本に存在する意義
BACKSIDE: 鳥肌が立ちそうなほど運命的なストーリーですが、TACTICSのチームライダーとしてやっていきたいことはありますか?
來夢: これからはTACTICSライダーとして、仲のいいオレゴンライダーたちと一緒にムービーを作りたいですね。オースティンがさっき言っていたように、パシフィックノースウェストと北海道のライダーたちが行き来しながら撮影して映像化できたらアツいですよね。
BACKSIDE: 日本でもカルチャーを醸成しながらコミュニティを形成していくことをTACTICS SAPPOROとしてイメージされていると思いますが、アメリカと日本ではスノーボードカルチャーに大きな違いがあります。
オースティン: コアな部分を大切にしながら、そこに熱中しているスノーボーダーやスケートボーダーに向けて発信していくスタンスは、アメリカと日本で変わることはありません。ストリートも滑るし、山も滑る。もちろん、ジャンプもする。それぞれ得手不得手はあるかもしれませんが、コンディションに合わせてあらゆるライディングスタイルを楽しむような、リアルスノーボーディングを発信していきます。
BACKSIDE: 長きに渡り札幌のシーンを形成してきた多くのプロショップが存在します。TACTICSとしてどのようなコミュニティやカルチャーを醸成していきたいと考えていますか?
玲: ライバル関係ではなく、チューンナップで提携したり、イベントを一緒にやりましょうなど、横のつながりを大切にしながら、ともに手を取り合ってシーンを盛り上げていきましょうという話を、各ショップとさせていただいています。
オースティン: TACTICSはスノーボーダーとスケートボーダーしか雇いませんし、玲のように様々なネットワークを持っている人材がいるからこそ、横のつながりが必然的に生まれます。そこは非常に重要です。
BACKSIDE: 弊メディアもそうですが、コア層へ向けて発信しながらライト層を巻き込んでいく作業の難しさを常日頃から痛感しています。TACTICSはどのような戦略を考えていますか?
オースティン: 様々なジェネレーションを巻き込んでいくために、若い層に対してはしっかりとカルチャーを伝え、ストーリーテリングでスノーボードのライディングスタイルや可能性、そのクールさを発信していきます。ライディングの技術というよりも、カルチャー全般についてです。また、イベントにはコアなトップライダーたちも参加しますので、彼らと一般層をつなげていく動きを大事にしています。
BACKSIDE: なるほど。ともに日米のスノーボードシーンを盛り上げていきましょう!
札幌のスノーボーダー&スケートボーダーが一堂に会したビッグパーティー
オースティンや來夢らのインタビューを終えてひと息つくと、17時からスタートするレセプションパーティーの前に店内をチェックすることに。TACTICSの25周年を記念して、クインシー・クイッグがアートを施したLIB TECH(リブテック)との限定コラボボードや、「オレゴンから愛を込めて」作られたUNION BINDING COMPANY(ユニオン バインディング カンパニー)とのコラボバインディングなど、ここでしか買えない商品が目に飛び込んできた。
さらに、かのFORUM SNOWBOARDS(フォーラム スノーボード)も並んでいるではないか。前出のオースティンがTシャツを着ていたように、TACTICSが推しているブランドのひとつだからこそ、TACTICS SAPPOROにもラインナップされている。ついに、日本でFORUMを購入できるのだ。数量限定なので、気になるという方は早めにチェックしていただきたい。
17時をまわると、札幌のスノーボーダーやスケートボーダーたちがオープンを祝うために集まってきた。東京からも多くの関係者たちが来店。プロスノーボーダーたちも駆けつけており、TACTICSジャパンチームに加入した安藤健次、同スタッフとして務める炭谷涼太を筆頭に、多くのライダーたちが集結した。
NOMADIKのディレクターを務める工藤洸平、「DIYX STRT JAM」に招待されるなど飛ぶ鳥を落とす勢いの小川凌稀、DUSTBOXクルーに飛び込みグローバルライダーとして活動する伊藤藍冬、SAJ(全日本スキー連盟)ハーフパイプコーチを務める村上大輔、「X GAMES」スーパーパイプで3大会連続メダルを獲得した松本遥奈、グラフィックデザイナーとしても知られるDKCこと吉田尚弘、長野五輪ハーフパイプ代表の今井孝雅、北広島市議会議員として活躍する滝久美子など、多くのプロスノーボーダーたちがお祝いに駆けつけていた。
来場者にはフリービアが振る舞われ、トートバッグのプレゼントも。希望者にはヒートプレス機でオリジナルプリントを施すサービスが提供されていた。また、乳がんの予防や早期発見につながる啓発活動を行っているB4BC(Boarding for Breast Cancer)へのドネーションを目的とした抽選会が行われるなど、ストア内が熱気の渦に包まれるなか、來夢のウェルカムパーティーがスタート。多くの来場者たちは來夢がプリントされたオリジナルTシャツを身にまとい、ともに最高のひとときを過ごしていた。
來夢、改めておめでとう! そして、アメリカンカルチャーを引っさげて日本上陸を果たしたTACTICSが札幌を起点として、日本のスノーボードシーンに多大なる刺激を与える存在になることを期待したい。
interview + text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
interpretation: Ray Takahashi
photos: Yutaro Miyano(TACTICS SAPPORO), Shuta Iwai