FEATURE
読者スノーボーダーが山岳地帯で体験した圧巻ビッグマウンテンライド【前編】標高2,300m雪中キャンプ編
2024.10.04
圧倒的なスケールと、地形の宝庫ともいえる唯一無二のロケーションの立山
日本国内のスノーシーズンが終わり迎える春、一部のスノーボーダーやスキーヤーによって盛り上がりをみせ始める特別なエリアがある。
それが長野県・富山県の山々をまたぐ立山・室堂だ。
室堂は日本有数の3,000m級の峰々が連なる山岳地帯・立山連峰を望む台地で、長野県側と富山県側のそれぞれの玄関口から交通機関「黒部立山アルペンルート」を利用してアクセスする雲上のフィールドとして知られている。一般に有名なのは例えば「雪の大谷」で、ニュースで春に雪の谷間を観光客が歩く映像を見たことがある人もいるだろう。夏は多くの登山者でにぎわうエリアでもある。
だが、厳冬期となると状況は一変。一帯は人を寄せつけない厳しさをまとい、12月から3月末までは黒部立山アルペンルートも運休。ほぼ完全に山は雪に閉ざされる。
そして、立山一帯がふたたび開放される春。ライディングギアを携えて上がって来るのが……そう、多くのバックカントリー愛好者たちだ。ここでは4月でも厳冬期のようなフレッシュなパウダーが味わえるだけでなく、5月に入ると良質なコーンスノーが山々を覆い、スノーシーズンの締めくくりにと何度も訪れる猛者もいるほど。何より、山岳地帯としての圧倒的なスケールと、地形の宝庫ともいえる唯一無二のロケーションは、国内のどのエリアにもない大きな魅力としてバックカントリー好きを惹きつけて止まないのだ。
今回BACKSIDEは、そんな春の立山・室堂へBACKSIDE CREWのFRESHFISH(有料会員)3名とともに訪れることにした。
メンバーは2児の父である埼玉在住のサトジュン(佐藤潤一・左)、中井孝治を崇拝する兵庫出身・在住のノブ(中央)、秋田から遠路駆けつけたクマ(三熊直樹・右)の3人。目的はもちろん、立山の残雪バックカントリーを体験するため。しかも、特筆すべきは「雪中キャンプ」というこの上ないハードコアスタイルで、という点だ。
狙うはビッグマウンテンならではの巨大なスロープ。そして、山中で眠る者にしか味わうことのできない夕景の極上フィルムクラスト。われわれは標高2,500mの地を目指したのである。
ビッグマウンテンの懐に抱かれて
そのビッグプロジェクトに欠くことができないのが、頼れるバックカントリーガイドだ。
立山のお膝元である富山市出身の水間大輔(右)は、ハーフパイプ競技を通じて取得したプロ資格を有するコンペティター時代を経て、現在は立山をべースにバックカントリーガイドとして活動している。19~23歳までは室堂にある山小屋で働いていたこともあり、一帯を熟知する存在。白馬を活動ベースにしている松本靖紀(左)は、ガイドカンパニー「番亭」のチーフガイドであり、フィールド経験値は折り紙付き。ただ楽しく滑るだけでない今回のビッグプロジェクトだからこそ、百戦錬磨のガイドをアサインする必要があった。
さる5月某日。2泊3日の山生活に必要な全装備を背負い、メンバーたちは入山した。
想像以上に、荷物の運搬は過酷を極めた。春とはいえ夜はマイナスに冷え込む立山だ。極寒仕様のテントや寝袋、防寒具、その他身の回りの必需品に加え、調理器具や食料、ドリンクの類いが重量をさらに増した。スタッフや撮影クルーたちの分まで合わせると、荷物の総重量は概算で300kgを超えていたそう。
室堂ターミナルから距離にして約2km。荷物との格闘を1時間ほど続けたころだろうか。ようやく「雷鳥沢キャンプ場」に到着した。雷鳥沢キャンプ場は、剱岳をはじめ周囲の山々を登るための基地となるテント場のことで、夏は色とりどりのテントであふれる。いっぽう、雪のある時期は限られた登山者と、バックカントリー狙いのマニアがちらほら。あたり一面が山に囲まれ、僻地感バツグンだ。
「では早速、ベースキャンプをつくっていきましょう!」
水間の掛け声とともに、CREWたちが動き出す。ベースキャンプとは、活動拠点となるキャンプサイトを意味し、食事を摂ったり休んだりする生活のベースとなる場所のことだ。車で横づけできる街中のオートキャンプとはわけが違い、限られた装備でいかに快適に過ごすかの知識や技術が求められる。
CREWのひとり、クマは登山も趣味ということもあってテント設営は手慣れたものだったが、編集長を含む残るメンバーはキャンプ経験は数えるほど(むしろ、ない)。雪の車中泊は熟知していても、雪中のテント泊はもちろん初めてだ。
「おおおー!!! できたー!!!」
設営を開始してから、30~40分ほど経っただろうか。大きな歓声とともに、色鮮やかな大型ドームシェルターが雪上に完成した。
じつは今回、スタッフを含めた個人のテントや寝袋、防寒具、そして夜のリビングスペースとなるドームテントなどをフルサポートしてくれたのが「Mountain Hardwear(マウンテンハードウェア)」だ。Mountain Hardwearはその名のとおり山岳クオリティのウエアやギアを展開するアメリカ西海岸のアウトドアブランドで、エベレストなどの極地遠征にも耐えうる高い品質と、スタイリッシュなデザインを備えた希有なブランドとして知られる。
何を隠そうブランド担当の梶恭平さんも滑ることをライフワークとする根っからのスノーボーダーであり、BACKSIDEに共感を抱くフリースタイルマインドの持ち主だ。水間、松本はともにMountain Hardwearサポートのライダーでもある。
「なにこの達成感! もはやオレ的にはいいターン切るより、このテント立てる達成感の方が確実に記憶に刻まれてるんだけど」
「ここにだんだん適応してきてるオレの新しい一面をさっきからずっと見てる気がするわ」
入山準備から軽くパニック気味だった編集長・野上、度重なる“初めて体験”に名語録を積み上げていく。それほど非日常過ぎるシチュエーションと、控えめに言っても最高としか言えないロケーションなのだ。
気づくといつの間にか陽が傾きつつあった。
オレンジ色がかった斜光が山肌を照らすたびに、斜面の陰影がいっそう際立っていく。テントの外で立ち話をしながら缶ビールを傾け、移ろいゆく山の表情をただ眺めているだけなのに、この格別感はどこから来るのだろう。下界の人たちはいま何をしているのだろう。
日常と完全に切り離された静寂の時間。ときおり吹く風の音だけを耳に、CREWたちはしばらく立山を眺めていた。
居酒屋水間、ドームテントにオープン
「みなさんーーー! 夕食できましたよーーー!!」
声につられるようにしてドームテントのなかに集まると、水間と松本がいつの間にか夕食の準備を終えていた。
「おーーーーーー! スゲーーーーーーーー!!」
「写真、写真!」
シャッターチャンスを逃すまいと一億総フォトグラファー状態で盛り上がる。
「これは立山で獲れたクマ肉の煮込みと、おでんです」
「なにそれ!? 山でそんなの食べらるなんて思ってなかったわ!」
「めちゃくちゃうまそう!」
「立山酒造の日本酒もありますんで! どれも冷えてますよ」
「どうりで共同装備が重いはずだわ……ふたりに感謝しかない!」
「こっちは富山名物のブリの漬け、サス(カジキマグロ)の昆布締めです」
「山で海の幸!?」
「すげぇ! 立山に開店した居酒屋水間じゃないですか!」
車で物を運べる一般的なキャンプと違い、荷物を制限される山での食事は基本的に質素だ。だが、山小屋時代に厨房に立っていたという料理好きの水間は、メンバーに「立山のおいしいものを食べてほしい」というホスピタリティ全開の人だった。前日から食材を仕込み、歯を食いしばって担ぎ上げ、調理までして提供してくれる。ガイドという仕事の奥深さを、ここでもまた垣間見た瞬間だった。
「こんな遊び方があるなんて……改めて山遊びの奥深さを感じましたね。スノーボードを通じて遊べるフィールドが日本国内にはまだまだたくさんあることを痛感しました。自分が用意していた装備だけだったら完全に凍死してましたけど(笑)」とは、長年こういう時間を思い描いていたサトジュンだ。
「今までは雪のなかでテントで泊まるなんてことを想像してなかったし、エキスパートな人たちの遊び方という認識でしかなかったけど、こんなに楽しいならギアを揃えたくなりますね! 雪中キャンプ×スノーボードという、険しいけど、同時に大きな自由がここにあって、またチャレンジしたいと思います」とノブも続く。
クマは「テント泊はある程度慣れていましたが、荷物を最小限に抑えることの重要さに気づかされました。野上さんがドームテントの中で何度も『渋谷より快適!』って言ってたことが印象的ですね(笑)。何よりやっぱり立山は素晴らしいし、その中でみなさんのサポートやMountain Hardwearのギアのおかげで、今までで一番快適&最高なキャンプが経験できたと思います」と話す。
もっといい雪を味わいたい、面白い地形を楽しみたい、スケールの大きな斜面を滑りたい。バックカントリーへと向かう動機は人それぞれだが、スノーボーダーであるならより深く雪山と関わりたいという思いは誰もが抱くものだ。雪上にテントを構えてべースを作り、星空のもと寝食をともにする夜がそこに加われば、山で感じる時間の密度は何倍にも何十倍にも濃いものとなる。頼れるガイド、極地で信頼できるMountain Hardwearのキャンプギアやツール、そして想いを共有できる仲間がいれば、決して手が届かない喜びではないのだ。
「やばい、テントが飛ばされそう! 固定が甘かった!!」
CREWの誰かが楽しそうにドームの外で騒いでいる。風で寝床が吹き飛ぶような珍事も起きうる非日常の世界。一歩踏み出さなければ、味わうこともなかったものだ。
明日はいよいよライディングの一日となる。暗闇の稜線の奥に控える岩の殿堂・剱岳方面へ向かうのだそうだ。
期待に胸が膨らむ。はたして今夜は眠れるだろうか。
後編へ続く
text: Ryo Saito
photos: Miho Furuse
Special Thanks: Mountain Hardwear
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