FEATURE
【創刊8周年特別企画】弊誌バックナンバー800円引きキャンペーン第9弾「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」
2024.08.27
2016年8月18日に産声をあげた弊誌「BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE」は、後世に伝えるべき価値あるコンテンツを見極めて紙として残すべく、これまで11冊の書籍を刊行してまいりました。ウェブマガジンは8年間、一日も欠かすことなく毎日更新。熱心なスノーボーダーたちとコミュニケーションを図りながら、創刊8周年を迎えることができました。これもひとえに、読者のみなさまのおかげです。日頃よりご愛読いただきまして、誠にありがとうございます。
そこで、創刊8周年を記念して、弊誌バックナンバーすべて800円引きのキャンペーンを行います(ISSUE 2、5は完売のため除く)。タイムレスなテーマを題材に編んだ弊誌を読むことで、日本だけでなく欧米のスノーボード文化に対する理解を深め、美しい写真たちを眺めながら紙媒体ならではの手触り感を得る。きたる24-25シーズンに向けて、モチベーションを高めていただけたら幸いです。
INTRODUCTION
はじめに
あのゴンドラに乗るために、早朝から並べられていたボードやスキー板の数は減るだろう。あのリフトに乗るために、これまでのように並ぶ必要はないのかもしれない。
この冬、一部スノーリゾートの風景は様変わりする。それは、新型コロナウイルスが引き起こしたパンデミックにより、外国人スノーボーダー&スキーヤーが来日できないから。
言うまでもないかもしれないが、北海道・ニセコや長野・白馬を中心に、この時期雪がない南半球のオーストラリアやニュージーランドからはもちろん、近年は自国に大型スノーリゾートを抱えている欧米諸国からも多くの外国人が日本のパウダースノー、いわゆる“JAPOW”を求めて大挙して押し寄せていた。白馬を中心に10のゲレンデから構成されているHAKUBA VALLEYのチケット販売データによると、2012-13から2018-19まで7シーズン連続して、年平均25%増の訪日外国人を記録したほどである。
そして、ニセコや白馬に限った話ではなく、感度の高い外国人たちはすでに、新潟・妙高や長野・野沢温泉など、日本のスノーエリアを開拓し始めているわけだ。それほどまでに、世界中のスノーバム(雪の放浪者)から日本が愛されている理由とは何か。
それは、ほかにも世界中に豪雪地域はあれど、ここまで多くの人々が日常生活しているエリアに雪が大量に降る国がないから。米アラスカの僻地やカナダBC州の山奥には、もちろん大量に極上パウダースノーが降り注ぐ。しかし、それとはワケが違う。街があり、その近くに多くのゲレンデが点在し、ハイクオリティなパウダースノーが堪能できる。しかも、食事も温泉も人も最高。さらに言えば、リフト券が格安だ。これらが日本が世界に誇るべ
き価値なのである。
これを言い換えれば、僕たちは世界中の雪を愛する人々が羨む環境に住んでいるということ。
灯台下暗しかもしれないので、改めておさらいしておきたい。日本は国土面積の約70%が山岳地帯であり、南北に伸びた列島だ。冬になるとシベリア高気圧からの冷たく乾いた北西季節風が強く吹き、日本海を流れる温暖な対馬海流から蒸発した水分を含み湿った風に変わることで雪雲が発生。それが山岳地帯にぶつかるため、日本海側は降雪が多くなる。
雪の降る地域を見ていくと、国の基準で豪雪地帯と特別豪雪地帯とに指定されているのだが、国土のおよそ50%の地域がそれらに該当する。特別豪雪地帯は国土のおよそ20%に及び、日本海側のほとんどが豪雪地帯に当たるのだ。
冒頭で述べたように、今シーズンは外国人が少ないからこそ、パウダースノー争奪戦の競争率は下がる。加えて、ラニーニャ現象が発生していることから降雪に恵まれる可能性が高く、コロナ禍だからこそゲレンデへ向かう一歩を後押ししたい、という想いはもちろんある。しかしそれ以上に、僕たちが住むニッポンの雪と山と文化を改めて知ってほしく、この一冊を編むことにした。
全国津々浦々のスノーエリアを12に区分し、それぞれを代表するプロスノーボーダー12名に話を訊いた。そのインタビュアーを、長きに渡りプロスノーボーダーとして活躍、今秋までアメリカ・カリフォルニア州マンモスマウンテンを拠点としていた上田ユキエが担当。筆者以上に全国の雪山に赴いた経験を持ち、さらに海外視点でも日本の雪山を切り取ってほしかったから。
それでは、世界一の豪雪大国に住むスノーボーダーの胸に、“JAPOW PRIDE”を刻みこんでもらいたい。
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE 編集長 野上大介
北海道 / 札幌
都会に極上パウダーが降り積もる世界一の街
日本最北端の政令指定都市であり、全国の市区町村で4番目となる197万人(2020年4月現在)が住む街に、大量の雪が降り注ぐ。100万都市でこれだけ降る街は、世界中を探してもひとつしかない。
1972年に日本およびアジア初の冬季オリンピックが開催されるなど、世界有数のウィンタースポーツの街として名高い札幌。その歴史を紐解いていくと、ヨーロッパの近代スキーが最初に日本に入ってきたのは新潟・高田とされている(91ページ参照)が、実は札幌だったという説が濃厚のようだ。
1908年(明治41年)、現在の北海道大学である札幌農学校でドイツ語の講師をしていたスイス人、ハンス・コラー氏が母国よりスキーを紹介したことに端を発する。しかし、コラー氏は滑れなかったため指導することができず、学生たちは独学で学んだそうだ。
さらに、彼らは馬ソリ屋にスキーを持ち込んで見様見真似で類似品を作らせ、校内の坂などで滑るようになった。これが、札幌の滑走文化の起源であり、国産のスキー板の第一号ということなるのだろう。
そして112年という時を経て、スノーライフとアーバンライフが両立できる稀有なスノータウンへと昇華したわけだ。都会に憧れて東京を目指す若者が多いように、豊富な降雪量と街を求めて移住するスノーボーダーが後を絶たないという話もうなずける。リモートワークが浸透しつつある近未来、さらに移住を考える人が増えることだろう。
それは、市街地から1時間圏内にゲレンデが10以上も点在しており、言うまでもなく日本屈指のドライパウダーが降り積もるのだから。それでいて、広大なゲレンデ面積を誇り、スティープな斜面から起伏に富んだ地形、そしてツリーランが楽しめ、運がよければマッシュにだってありつける、まさにフリーライド天国。雪を求める世界中の放浪者たちが必ず立ち寄る街、そう言っても言い過ぎではないだろう。
事実、多くのスノーボードムービーを観ていればわかるように、スノーライフとアーバンライフを満喫するだけにとどまらず、すすきのでナイトライフまで充実させている様子が多く発信されている。そんな懐の深すぎる札幌にはたくさんのプロスノーボーダーが生息しているため、彼らのライフスタイルがそのまま、このエリアの魅力に直結しているのだ。
“遊び上手” な男
安藤健次
プロスノーボーダーたちが唸る上手さ。スケートボードをバックグラウンドに持ち、卓越した板さばきに定評のある男。京都から札幌に移住したことで身につけた、“遊び上手”という表現がふさわしいライディングを誇る安藤健次だ。年齢を重ねた今もなお、フリースタイルに遊び続ける彼のスノーライフにこそ、この地の魅力が詰め込まれている。
フリースタイルのすべてを楽しみたいし、楽しめる。
北海道は札幌に移り住んで20年。今もブレぬ京都弁でこの地を語ってくれたのは、アンディこと安藤健次。
「オレはとりあえず、札幌に来てからはほぼ同じゲレンデで滑ってる」
それは、定山渓高原に位置する札幌国際だ。自宅からの距離が一番の決め手と言うが、年間の降雪量が多く、同じ札幌エリアの中でも営業期間が長いことも大きな要因だ。トップシーズンに入ると撮影のため、バックカントリーに入る機会が多くなるからこそ、それまでの準備期間も含め、普段はとにかく滑り込みたいんだと語る。
「これだけ長くいたらポイントもいっぱい知ってるし、飛べるスポットも小さい場所からあって練習になる。オレの性格かもしれんけど、同じゲレンデをずっと滑ってても楽しいからな。同じポイントだったらどんどん違う技にトライしたり、復習したりしてもいいわけやん」
その理由は、雪質のよさや降雪の多さはもちろん、地形遊びの面白さがある。トップシーズンになると埋まるそうだが、「コブ斜面になるコースなんかも、シーズン始めは一番地形が張り出していて、起伏を飛んで遊べる。そこらじゅうモコモコしていて楽しいんだ」
積雪が多いゲレンデだけに、地形が露出している限られた時期というのも魅力なのだ。
また、自己責任のもとバックカントリーエリアを開放しているのがサッポロテイネ。
「テイネは全体的に斜度があるから、どこを滑っても面白い」
降雪に恵まれれば最高のコンディションであることは言うまでもないが、降っていなくてもカチカチに冷え固まったバーンがいい修行になるそうだ。
急斜面だけでなく、ナチュラルという名の林間コースも安藤の遊び場のひとつ。
「サイドヒットで上手くラインを繋げられると、ポンポン飛んでいけるから楽しい。木を飛び越えたり、ボンクしたりしながら遊べる」
テイネは上部にハイランド、下部にオリンピアというふたつのゲレンデがゴンドラで繋がっている。
「ハイランドの一番上からオリンピアの麓まで、スーパーロングコースで滑れる」
さらに札幌界隈には、里山に点在する豊富な自然地形を楽しめるスポットがある。海外からも映像クルーが撮影のために訪れるなど、多くのライダーたちにとって“映える”ロケーションでもあるのだ。
仕事やイベントなどで札幌界隈のゲレンデに赴くことの多い安藤は、「どこで滑っても楽しい」と太鼓判を押す。
「パークを滑るならテイネ、それとばんけいかな」
北海道に多く存在していたハーフパイプは次々と姿を消したが、現在も道内で唯一常設しているのが、さっぽろばんけいである。
「テイネはディガーチームが入っているので、しっかりパークを運営してる。キロロはメジャー(佐藤洋久)が関わってバンクドスラロームのコースを造ってるよ」
「どうしてもパウダーを滑りたいなら、キロロに行ったらいい」
キロロリゾートはサイドカントリーエリアがゲート制で開放されているのだが、山の広さに対して人が少ないので、夕方までパウダーが残っていることが多いそうだ。
私はこれまで、北海道に行くとなるとニセコエリアやキロロリゾートなど、新千歳空港からの距離が遠くても直結バスが走っているなど、アクセスのいいエリアを選ぶことが多かった。
「(札幌)国際はよそから来るとアクセスが面倒なのよ」とのことだが、ライダーたちからもよく耳にするので気になるゲレンデだ。先の安藤の言葉を聞けばなおさら。観光客がアクセスしづらいということは、ローカルスノーボーダーが贅沢に楽しめるというわけ。
「昔はよくコモり組が来てたけど、今はローカル山。早い時期から撮影をするライダーたちが多いね。ABSINTHEのクルーも来てたことがあって、ニコラス(ミューラー)やテリエ(ハーカンセン)も案内した」
やはり、嗅覚を研ぎ澄ましているスノーボーダーたちが足を運ぶ価値のある場所なのだ。
近年、布施忠とともに札幌国際で足慣らしを兼ねてライディングしている姿をSNSなどで見かけるが、セッションする相手はプロに限らない。
「スノーボードが上手い下手問わず、一緒に滑っていて楽しいヤツがいい。上手くなりたいって気持ちが強いヤツに挑戦させるのが好きやから」
「オレは楽しみながら向上心を持って、どんどん新しいことをやりたい。ジャンプだってずっとしていきたい。だって、一番簡単なもん履いてんで、飛ぶのに。そのいい文化を活かさんと」
安藤にとって滑ることは、仕事である以上に遊びなのだ。そして滑りのレベルを問わず、その遊び場に仲間を受け入れる。
「仕事で疲れるのが一番嫌い。仕事で疲れててもスケボーやスノーボードでもう一回疲れたほうが、次の日頑張れる」
技ができたときの感覚をしばらく思い出しながら数日過ごせると、嬉しそうに語ってくれた。
そうした貪欲な彼が北海道に移住するキッカケとなったのは、アマチュア時代に行ったニュージーランドの撮影だった。
「上手い子は北海道の人が多くて。フリーライディングするんやったら北海道だと思ってたから、プロになった瞬間に行こうと決めた」
札幌に移住して、プロとしてのスノーボード人生が完全に変わったと話す。
「ここまでこの世界で生きてこれたんはきっと、オレが移住したからやと思う。常に雪の近くにいれたから」
札幌の地に移り住んだことで上手くなる楽しさが増えたと話す安藤は、スキルだけでなく、その“遊び方”もプロだった。
「スケボーやサーフィンに比べて簡単って言われがちやねんけど。スノーボードは最初は簡単やけど、滑れば滑るほど難しくなるねんな。それが面白い。パイプ、パーク、ジブ、バックカントリー、それぞれ違う面白さがあるやん。オレはそれを全部やりたい」
グラウンドトリックひとつをとっても、その板さばきがどれほどほかの動きに役立つか。すべてのアクションが繋がってこそスノーボーディングなのだと彼は考えている。
「この人のライディング面白いよねって思ってもらえる、そういうライダーになりたくて。今はその途中」
スゴい技をすることだけが魅せ方ではなく、人が見て滑りたくなるような、挑戦したくなるような滑りがしたいのだと語る。
安藤がジャンルに縛られない滑りを続けているのは、変わらぬ環境でも多様なスノーボーディングができる札幌の雪山にヒントがある気がしてならない。今度北海道に行ったら札幌に滑りに行ってみよう。ひさしぶりに彼の後ろを滑ってみたいと思ったから。
words: Yukie Ueda
つづく
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ISSUE 11 JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る 2020年12月18日発売 / A4サイズ / フルカラー / 日本語・英語 / 150ページ / 定価1,800円→特別価格1,000円