FEATURE
“スノーボードの神”と呼ばれるテリエと滑りまくった奇跡の一日。「BACKSIDE SESSION #15 with FLUX」
2024.11.15
さる3月20日。一般的には春分の日であり、“アクションスポーツの日”としても制定されているこの日、群馬・川場スキー場にて4年連続となる読者主体の滑ろう会「BACKSIDE SESSION」を開催した。4年前はまだコミュニティ運営を行っていなかったのだが、藤森由香を招いて初のセッションを実施。これを契機にスノーボードコミュニティ「BACKSIDE CREW」を作ろうという着想に至ったのだが、発足から3シーズン目の終盤に行われたCREW限定のBACKSIDE SESSIONに、まさかこれほどまでの超大物ライダーが参加してくれるとは──。
フリースタイルシーンを共創するべく、弊ウェブマガジンにご賛同いただいているブランドと一昨シーズンからコラボレートしてセッションを行っており、川場でのセッションはパークの冠でもあるFLUX(フラックス)とタッグを組んでいる。ご存知の方も多いと思うが、昨シーズンより相澤亮が同ブランドに移籍したことを受けて、彼をセッションのゲストライダーに打診した。しかし、亮はスケジュールが合わないということで、FLUXサイドから提案された候補ライダーの名前を聞いて驚愕した。“スノーボードの神”と称される、テリエ・ハーカンセンだったからだ。
え、テリエがなんでFLUXなの?という疑問符がついている人がまだいると思うので説明しておくと、先日弊ウェブマガジンの記事でもご紹介したように、FLUXの開発アドバイザーとして加入したのだ。これまで長きに渡るライダー人生を通じて培ってきた幾多のノウハウを、ひとつでも多くのプロダクトに反映させたいという熱き想いをテリエは持っている。そこで、これまであらゆるライダーたちからのフィードバックを具現化してきたジャパンブランドとの契約に至ったというわけである。
筆者(編集長)は1992年にスノーボードを始めたのだが、その当時から世界のトップに君臨し、ベテランスノーボーダーたちにとって忘れることができない不朽の名作『ROADKILL』の主演ライダーのひとりであり、その後も常にシーンのトップをひた走ってきたテリエ。スノーボード業界に足を踏み入れてから彼と接した機会はもちろんあり、なんとなくどういう人物なのか理解していたうえで、「果たして、本当に川場に来るのか?」という疑念が拭えなかった。
しかし、そんな心配は無用だった(テリエ、失礼)。FRESHFISH(有料会員)メンバー同士の交流を深めるべく、本セッション初の前泊(飲み会)を用意しており、FLUXのスタッフとも親睦を深めるべく一部のCREWたちと宴を行っていたのだが、その夜に沼田入りしたテリエとFaceTimeで乾杯するという粋な演出をFLUXチームが提供してくれた。そして翌朝、「FIRST TRACK」のサービスは終わっていたため、営業前にリフト乗車させてもらう「FIRST CHAIR」(勝手に命名)を行うため、ゲレンデがオープンする1時間以上前の早朝6時45分にセンターハウス「カワバシティ」に集合だったにもかかわらず、そこにテリエの姿があったのだ。
すぐに駆け寄り感謝の意を伝えると、開会式でテリエに挨拶してもらい、早速セッションがスタート。季節外れの雪が降りしきる中、まずは貸し切りのゲレンデでパーティーランを行うことに。リフトに同乗して追い撮りすることをテリエに伝えると、1本目からストーカーばりに彼の後ろを滑らせてもらったのだが、とにかく速いのなんのって。初めて滑るだろう川場のはずなのに、朝イチなのでカリカリのはずなのに、超ハイスピードで名物の壁地形にツッコミまくり。ひさしぶりに必死に滑った(笑)
後ろを振り返ると、多くのCREWたちが自分の滑りはそっちのけでテリエを追い撮りしているではないか。やはり神のライディング映像は家宝級なのだ。そういう意味で、今回のBACKSIDE SESSIONは異質だった。端から見ていたらきっと異様な光景だっただろうし目立っていたことから、川場に神降臨という噂が流れていたとか、いないとか?
その後もテリエは休むことなくクワッドリフトのクリスタルエクスプレスに繰り返し乗車し、クリスタルコースの壁地形だけでなく、高手ダウンヒルの「SURF RIDE PARK」も堪能。ライディング中、ひと際オーラが輝いていたことは言うまでもないが、リフト乗車中やバインディング装着中は、積極的に参加者たちとコミュニケーションを図ってくれているではないか。最初は戸惑っていたCREWたちも、我先にテリエとのリフト乗車を目論むなど、一生に一度あるかないかの神とのセッションを全開で楽しんでいた。
FRESHFISHの高松将人さんがリフト上で「いつから神と呼ばれるようになったんですか?」という質問を投げかけると、「そんなこと言うのは日本人だけだよ」としたうえで、「昔、東京ドームで『X-TRAIL JAM』という国際大会があって、そこでこのニックネームをつけられたんだ」と語っていた。そう、僕の前職である今はなきスノーボード専門誌が同大会のオフィシャルメディアを務めており、パンフレット制作も行っていたのだが、ライダーたちのキャッチコピーは主催者である日本テレビのスタッフと一緒に考えていたことを思い出す。昔のパンフレットを引っ張り出して確認すると、テリエのキャッチコピーは毎年「GOD OF SNOWBOARD」だった。テリエのCREWたちに対する神対応を見ていると、あれから15年以上の歳月を経て、滑り以外も含めて本物のGOD OF SNOWBOARDになったように感じられた。
3時間滑りっぱなしのセッションだったが、一旦ボトムまで下りてコーヒーブレイク。天候は少しずつ回復傾向にあったものの、この時点で10時半を回っていた。このままテリエはフェードアウトか……と思いきや、まだまだ滑ろうぜ!とサービス精神旺盛だった。桜川エクスプレスで中腹まで上り、そこからクリスタルエクスプレスに乗り継いでウォールセッションかと思っていたのだが、ここからパークセッションがスタート。今シーズンは雪不足だったこともあり、桜川コース上部の「EASY PARK」にはその名に反して、例年は設置されていない2ウェイのキッカーがあった。FLUX PARKよりも上部に位置するため、暖冬少雪のシーズンならではということだろう。しっかり順番待ちしてドロップインしていたテリエは2ウェイのビッグキッカーを飛んでいたため、一緒に飛ぼうぜという粋な計らいで、一部のCREWはスモールキッカーにエントリー。神とエアタイムを共有できるというミラクルが起きたのだ。
そこからFLUX PARKに向かう途中、ライダーズレフトに点在する圧雪バーンと壁地形との段差を利用して、ここまでやってくれるのかとばかりにハンドプラントを連発するサービスも。英語が話せないCREWにも懇切丁寧にハンドプラントを教えるひと幕もあった。
FLUX PARKのスタート地点に立つ前には、高速でアプローチして端パウに当て込み、CREWたちだけでなく、パークで遊んでいるスノーボーダーをもうならせていた。パークではダウンレールにテールタップしてアプローチすると、バックサイドヒップでシルエットだけでもテリエだとわかる特大メソッドを何度も披露してくれた。これを観ていたアラフィフ世代のCREWたちは、ただただ感動。青春時代に雑誌やビデオで間違いなく観たことがある、あのメソッドエアを目の前で拝むことができるなんて、夢にも思っていなかったはずだから。
40代が中心のFRESHFISHのメンバーたちにとって、テリエはまさに神である。彼らは本セッションをどう感じたのか。
CREW全員が多大な刺激を受けた本セッションは、14時頃まで続いた。閉会式でテリエが「FLUX × KAWABA フォトコンテスト」に投稿したCREWたちの写真からひとりを選んで、現行モデルのCVをプレゼントする予定だったのだが、テリエは「どれも素晴らしいから選べない」とのことで、急遽、90年代初頭のFLUXローンチから携わっているボス、打江佳典氏とのジャンケン大会に。見事、本セッションを契機にSTALEFISHからFRESHFISHにアップグレードしてくれた成瀬岳史さんが獲得し、ハイバックにテリエのサインをゲットするという唯一無二のバインディングが完成。これにて本セッションは終了となった。
テリエと筆者は1974年生まれの同い年。後半のパークセッションでは、テリエのラインどりを参考にしてバックサイドヒップで空中遊泳を楽しみ、2ウェイキッカーではテリエと共演させてもらった。普段は年齢や古傷を言い訳にして人工物で飛ぶことはあまりしないが、テリエのキレッキレのライディングを目の当たりにして、年齢なんてただの数字だと痛感。
スノーボードの神と過ごしたオンスノーでの時間は、CREWたちの心に深く刻まれたことだろう。もちろん筆者もそうだ。神と同じように飛べるわけがない。でも、これからも飛び続けたいと切に思った。そのうえで、パウダースノーに恵まれなかったとしても、壁や起伏に富んだ自然地形はもちろん、フラットバーンや小さなギャップでも、創造力次第で遊ぶことができる。どんなコンディションであろうとも、すべてを楽しむことがフリースタイルスノーボーディングの本質なのだ。このようにテリエが滑りで語ってくれたような気がした。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: ZIZO=KAZU
special thanks: Kawaba Resort