FEATURE
佐藤秀平が生まれ育った北海道パウダーベルトの旅【後編】OMO7旭川 by 星野リゾート
2023.12.15
その秀平のクルマの助手席に座り、揺られることおよそ3時間。明日から2日間の撮影についての打ち合わせはもちろん、最近のスノーボードシーンやプライベートについてあーだこーだ話していると、あっという間に旭川に到着した。滞在先は、旭川市街地のほぼ中心、2018年9月に「旭川、スキー都市宣言」を発表した「OMO7旭川 by 星野リゾート」だ。ここを根城とし、北海道パウダーベルトの真価を、さらに深掘っていく。
滑る人のために誕生したホテル「OMO7旭川」
フォトグラファーとも合流し、OMO7旭川にチェックイン完了。ひとまず荷物をほどき、風呂に入ってから夕食を食べに行こうという話になった。
「スノーボードやスキーをやる人にとっては、もってこいの部屋だと思います。ボードを部屋に持っていくのはNGってホテルが多いじゃないですか。でも、OMO7旭川は部屋に持っていけるし、すべてのギアを乾かしながら置くことができるから調子よさそう」
旭川在住の秀平にとって、OMO7旭川に泊まる理由はない。しかし、「ここまで快適だったら今後も泊まりたいくらい(笑)」と絶賛していた。
OMO7旭川のサービスのひとつとして、旭川の街をディープに案内してくれる「ご近所ガイドOMOレンジャー」が好評だ。しかし当然ながら、秀平は旭川を知り尽くしているため、本トリップではご遠慮させていただいた。OMOレンジャーとは、旅行者たちの満足度を高めることが使命。グルメやお酒、カルチャーなどをテーマにOMOレンジャーたちがそれぞれの得意分野を案内してくれる。例えば、「ローカルグルメ探訪」や「はしご酒ツアー」といったご近所アクティビティが人気だ。
本トリップでは秀平にOMOレンジャー役(?)を担ってもらい、おすすめの焼肉屋「慶州」で舌鼓を打っていると、めちゃくちゃ調子よかったというOMO7旭川のサウナの話になった。
「トマムでもサウナの話をしてたからサウナーかよ!って言われそうですけど(笑)、オートロウリュがめちゃくちゃ調子よかったですね。お風呂はそこまで広くないんですけど、歩けるプール(ウォーキングバス、水温32~33℃の低温バス)の奥にブランコみたいなのがあって、そこで浮いている感じがめちゃくちゃ気持ちよかった!」
サウナばかりでなくスノーボード談義にもしっかり花が咲き、明日は「大雪山黒岳」に行こうという話になった。ホテルに戻ると少し飲みたりなかったこともあり、バーでクラフトビールをグラブする秀平。「めっちゃ雰囲気いいですね」とちょっとした贅沢時間を過ごし、明日に備えて早めに床についた。
翌朝。黒岳に行くことは決まっていたものの、OMO7旭川の朝イチはエントランスに“パウダー情報士”が待ち構えている。大雪山旭岳、カムイスキーリンクス、富良野、トマムのパウダー指数を独自に判定。各ゲレンデのリアルタイムのコンディションについて情報収集できるのだ。
「いろいろ選択肢がある中で、朝ベストなゲレンデを紹介してくれて行き先をそこで決められるから、一般の人たちにとって、とても素晴らしいサービスですね」
黒岳のパウダー情報は出ていなかったが、「ほかがこういう状況だったら今日は黒岳で間違いないですね」と、さすがはローカルスノーボーダーの判断。確信めいた撮影クルーはOMO7旭川を後に、黒岳へクルマを走らせた。
バックカントリー入門編として最適な山「大雪山黒岳」
「正直なところ、黒岳に来るようになったのはバックカントリーを滑るようになってからです。逆に、子供の頃はよく行ってました。一番最初にオープンするゲレンデだからオヤジや友達の親に連れていってもらって、一番上の短いコースを滑るだけで、登ったりはしませんでしたね」
秀平がこう語るように、黒岳はボトムから層雲峡・黒岳ロープウェイで1,300m付近まで一気に上がり、その上に黒岳ペアリフトが1本あるのみ。コースを滑るために行くのではなく、標高1,520mに位置する黒岳ペアリフト降り場でスノーシューやスプリットボードを装着し、標高1,984mの黒岳山頂を目指すのだ。七合目までロープウェイとリフトが運んでくれるわけだから、お手軽と言える。
「バックカントリーに挑戦したい、もしくは始めたばかりの人でも、ロープウェイで上がってリフト1本乗れば、ハイクアップのスタート地点に着きます。しかも、真正面に登っていく斜面があるので、初めての人でもパッと見で登り始めるポイントがわかりやいのもいいですね。アクセスがめちゃくちゃいいし、道具を初めて使うときの練習場所としても最適だと思います」
若かりし頃はハーフパイプやパークでトリックに興じていたが、現在はバックカントリーを目指す、もしくは憧れを抱いているだろう、弊ウェブマガジンの読者にとってうってつけのフィールドなのだ。何を隠そう筆者も、購入したばかりのスノーシューやポールを試しながら同行していた。
撮影日となった2月21日、黒岳山頂付近は強い風が吹き荒れていた。何組かのクルーがすでにピークから滑り出していたこともあり、およそ1時間登ったポイントから別のラインで撮影することになった。
場所によっては強風に叩きつけられたパウダースノー。そうした状況下で秀平は、ハイスピードでパウターンを決めていく。巻き上げたスプレーが強風にあおられ、舞い踊っていた。
「ピークのほうは急斜面ですが、選べば初中級者向きの斜面もあるので、バックカントリーの入門編として適した山だと思います。しっかり見えているところを登っていけば安心感もありますしね」
バックカントリー初級レベルの筆者も気持ちよくパウターンを刻ませていただきながら、下山。冷えた身体をホットドリンクで温めながら、滞在先であるOMO7旭川へ戻った。
父の意思を引き継ぎ経営しているプロショップ「KONA SURF」の仕事が溜まっているようで、夕食までの間、PCと向き合う秀平。
「1階のレストラン(OMOカフェ&バル)の横に、本が置いてあるフリーアドレスのようなスペース(ブックトンネル)があって、とてもリラックスできる雰囲気でした。リモートワークができるスノーボーダーだったら、長期滞在にもOMO7旭川はうってつけですね」
近場で夕食を済ますと、秀平は一旦OMO7旭川に戻り、明日の撮影のためワックスを入れることに。「ワックス台からスクレーパーやブラシまで、すべてが整っていて、しかもフリーワックス。めっちゃいいですね」と、プロショップのオーナーも高評価。手慣れた手つきでスクレーピングまで終えると、秀平は行きつけのバー「Casual Bar Monbébé」へと消えていった。
確実にフリーライディングが上手くなる「カムイスキーリンクス」
翌22日。撮影最終日は、旭川市街からクルマで30分という近さにもかかわらず豊富なパウダースノーを堪能できる「カムイスキーリンクス」に向かった。幼き頃から足繁く通っている秀平のホームマウンテンだ。現在はないが、ここでハーフパイプと出会いプロスノーボーダーの道へ進むことになったわけだから、彼にとって特別なゲレンデなのだろう。
「斜度のあるコースもあるから、ピステンバーンでのカービング(ターン)が気持ちいいですね。コース脇には壁がたくさんあるから地形遊びも楽しめるし、パウダーもしっかり溜まっていることが多いので、めっちゃ好きなゲレンデ」
KONA SURFの店長であり、平昌五輪ハーフパイプ出場のオリンピアン、さらに言えば、弊メディアが運営するスノーボードコミュニティ「BACKSIDE CREW」の一員でもある大江光が撮影に加わった。世界中を飛び回るグローバルライダーでありオーナーの秀平を影で支える立役者だ。
「オレのルーティンは、朝イチにピステンバーンでカービング(ターン)を刻んで身体が温まってきたら、まずは非圧雪のロイヤル中・上級コースへ。パウダーがしっかり溜まっていることが多いから浮遊感を味わって、再びゴンドラに乗り込み、第5ペアリフトを目指します。このリフトで回しながら、周辺のサイドカントリーを攻めるんです。ディープパウダーコースやフレッシュパウダーコースに点在しているポイントが面白いんですよ。タイトなツリーも多いですが、アドベンチャー感覚で楽しんでいます」
そんな秀平にとっての“裏庭”で、光とのセッションを敢行。秀平と同じくパイプ出身の光は、上司であり師であるバックカントリーフリースタイル界を牽引する男が育った山で、午前中はほぼ毎日ライディングに明け暮れていた。
「光ちゃんはこれまでパイプやパークを中心に圧雪されたところばかり滑ってきたと思うんですけど、旭川に移住してきて昨シーズンはカムイを滑り倒していました。このセッションのときは一緒に滑るのがひさしぶりだったんですけど、かなりフリーライディングが上手くなったなって感じましたね」
カムイの懐の深さを感じさせるエピソードだ。秀平が言うように、高速のカービングターンが楽しめるグルーミングバーンが用意されていて、コースサイドには壁地形が豊富に点在し、パウダースノーに恵まれていることは言うまでもなく、そのうえで、下写真のような極上マッシュまで育っているのだ。
カムイでのライディング撮影を終えると、店を開けるためひと足先に戻っていた光が待つKONA SURFへ。先述したように、亡き父が経営していたプロショップを受け継いだ秀平。光との二人三脚で、新たなるプロショップの“あり方”を求めて活動している。
「旭川の観光地のような存在になりたいと思ってスタートを切りました。まだ1周年を終えたばかりでわからないことも多いですが、オフシーズンでもライダーたちが集まってくれるし、スノーシーズンが始まれば一般の人たちが多く足を運んでくれています。道外からも来てくれるようになってきて、少しずつですが、イメージしていた方向に近づいているという手応えもあります。コーヒーを出したりしているので、何か買い物をするっていうよりも、まずはゆっくり休みがてら、お店を見にきてもらいたいっていう気持ちが強いですね」
世界に誇る極上なドライパウダースノーが降り積もる旭川市には、35万超の人々が住んでいる。多くの飲食店がひしめき、北海道の大地で採れた食材を活かした料理たちは、言うまでもなく美味だ。愛情を込めてスノーボードを販売しているプロショップも存在し、その中心地にはスノーボーダーのためのお宿、OMO7旭川が滑り手たちのライフスタイルを支えてくれる。
この冬、北海道パウダーベルトを巡る旅を計画してみてはいかがだろう。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Tsutomu Nakata