COLUMN
回転数を下げる進化。スコッティ・ジェームスのスイッチマック360について考える
2023.10.12
1990年代前後のフリースタイルスノーボーディング黎明期、意外性のあるアクションが世界中のスノーボーダーたちを虜にしていた。例えば、ストレートジャンプでシフティしながら宙を舞い、アクション後半の着地直前にBS180を仕掛けるシフティレイトBS180が世界中で大流行。また、スイッチでフロントサイド方向へ270回してBSシフティの状態を空中で保ち、そこから反動を利用して90戻すため結果ハーフキャブになるのだが、低回転スピンをいかにクールに表現するかがトリックの醍醐味だった。
その後、ライダーとプロダクトの進化が相まり、ハーフパイプやクォーターパイプなどトランジションでエアの高さという武器を獲得することに。それと並行してストレートジャンプが巨大化してビッグエアと呼ばれるようになり、スピンの回転数は増加の一途をたどってきた。現在、ビッグエアでは荻原大翔が成功させた2160(6回転)、ハーフパイプでは平野歩夢が北京五輪で隠し持っていたとされる1620(4回転半)が恐らく、スピンの最高回転数だろう。
そうした潮流の中、北京五輪ハーフパイプ銀メダリストのスコッティ・ジェームスが、冒頭で述べたような意外性の高いクールなアクションを自身のSNSにポストした。彼が得意とするスイッチマックツイストの動きから、着地直前に180戻してノーマルスタンスで着地するというトリックだ。マックツイストは縦1回転と横1回転半(540)を同時に行う技なので、踏み切ったスタンスと同じ着地になる。しかし、動画をご覧いただければわかるように、スイッチスタンスで踏み切ってノーマル(レギュラー)スタンスで着地している。本記事ではあえてマックツイスト360とタイトルに銘打ったが、スイッチマックツイスト・リバート、スイッチマックツイスト・トゥ・レギュラー、スコッティ本人はスイッチマックツイストからのバック・トゥ・レギュラーと表現している。いずれにせよ、あえて回転数を180減らしているのだ。
反対に回転数を増やす動きは90年代から行われており、北京五輪ハーフパイプ決勝で歩夢の2本目に対するミスジャッジに吠えたアメリカの解説者でありレジェンドライダー、トッド・リチャーズが1998年にマックツイストに360を加えたウエットキャット(マックツイスト900)を開発。シグネチャートリックとして大きな話題を集めた。
また、2007年には今回スコッティが披露したトリックのノーマルスタンス版が繰り出されていた。米オレゴン州マウントフッドで行われたイベント「ABOMINABLE SNOW JAM」のクォーターパイプで、パット・ムーアがそれに成功。本人いわく、そのトリックについてマックツイスト・トゥ・フェイキーと表現している。
平昌五輪前、先出の歩夢はクリップラーにジャパングラブを加える独自性の高い低回転トリックを含むルーティンでコンテストに挑んでいた。現在のハーフパイプ、特にトリックの回転数や難易度をジャッジ基準として重視するオリンピックやワールドカップで勝つためには、こうした低回転スピンをルーティンに組み込みづらい。しかし、その最先端にいるトップライダーたちがあえて、低回転のクールなスピントリックに磨きをかけているわけだ。ここにフリースタイルスノーボーディングの本質が宿っている、そう言えるのではないか。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)