BACKSIDE (バックサイド)

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INTERVIEW

急速に進化する日本ストリートシーンの中心にいる22歳 鈴木冬生が打ち破る世界の壁

2023.08.14

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小川凌稀や戸田真人らを中心に、世界基準でその価値が高まってきた日本のストリートスノーボーディングシーン。欧米諸国に比べてストリートカルチャーが浸透していない日本という島国ではあるが、想像力豊かにアーバンライディングを楽しむ彼らによって、そのレベルは世界レベルにまで高まってきている。記憶に新しい今年2月18日、群馬・パルコール嬬恋リゾートにて「NISSAN X-TRAIL e-4ORCE RAIL JAM」が開催されるなど、そのアンダーグラウンドなシーンは今確実に、注目を集めているのだ。
日夜身を削って自身を表現するストリートライダーたちにスポットライトを当てるべく開催されたこのコンテストで、実力派ライダーたちを打ち破り、見事ベストインプレッションライダー賞に選ばれたのが、本記事で取り上げる22歳の鈴木冬生である。今盛り上がるストリートシーンの中心にいる彼もまた、進化の過程で海外ライダーとの間に存在する“壁”を意識してきたという。憧れのライダーたちが残したフッテージを自身のライディングによって塗り替えることでその存在をアピールする冬生に、若くしてここまで上り詰めることができた背景について語ってもらった。

 

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X-TRAIL RAIL JAMの興奮の渦の中心にあった冬生のストリート仕込みなライディング。セクションをいち早く攻略し、高難度かつスタイリッシュな技を何度もメイクすることで、会場に大きなインパクトを与えた
photo: ZIZO=KAZU

 

「はじめてDPの映像を観たときに衝撃を受けて、ストリートの世界に足を踏み入れました」

──17歳にして国内最強ストリートクルー「DIRTY PIMP(以下DP)」の作品に出演を果たし、22-23シーズンではNISSAN X-TRAIL e-4ORCE RAIL JAMにてベストインプレッションライダー賞を獲得するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続ける冬生ですが、まず、スノーボードとの出会いについて教えてください。

もともと両親がふたりともスノーボードをやっていて、小さい頃からよく雪山には連れて行ってもらっていました。最初は乗れるキッズ用のギアとかが家になかったので、スキーをやっていたんですが、全然面白くなくて。10歳くらいのときに初めてスノーボードに乗ったんです。そこからは4シーズンくらい、親に連れられながら大会を回って、競技として取り組んでいました。競技の空気感は僕には合わなくて、当時はあまり楽しくなかったんですけどね。

──早い段階から国内のストリートスノーボーディングシーンにて頭角を現していましたが、DPとの出会いはいつだったのでしょうか。

僕がお世話になっているBELLS(愛知・あま市のプロショップ)っていうショップがあるんですけど、そこにDPのDVDがたまたま売っていたのを見つけたときですね。初めてDPの映像を観たとき、街中にある手すりをコスるっていう僕が知らないスノーボードが映し出されて、「オレ今まで本当にスノーボードしてたのか?」と思うくらいの衝撃を受けたんです。僕はもともと音楽が好きで、ヒップホップやロックを当時からよく聴いていたんですが、自分の好きなヒップホップがBGMで使われているところもカッコいいと思いました。DPの映像に影響を受けて、ライディングのジャンルとしてではなく、音楽やファッションも含めたカルチャーとしてのストリートにハマりましたね。

──DPクルーにジョインし、彼らが主戦場としているストリートに自身も赴くようになったキッカケは?

家が近かったので小さい頃からスノーヴァ羽島(岐阜の室内ゲレンデ。2021年閉館)に通っていたんですが、DPの影響でジビングやストリートに興味を持って練習を始めたのは14歳くらいでした。「JIB VILLAINS」っていうジブの大会がスノーヴァ羽島であって、当日、DP(DPクルーを束ねる平上裕太郎)もその場にいたんです。そこで優勝することができて、DPから「ストリートをやってみないか」とお誘いをもらったことをキッカケに、ストリートでの撮影にもチャレンジするようになりました。

「海外のライダーたちがフッテージを残したスポットを自分が塗り替えたとき、壁を破ったと感じました」

──DPクルーとしてストリートでのさまざまな撮影を経験してきています。これまで撮影をともにした先輩クルーたちから学んだことや、印象に残っているエピソードなどあれば教えてください。

撮影は凌稀くんや真人くんと一緒に動くことが多かったんですが、あのふたりのスノーボードとの向き合い方からはいろいろと学ぶことが多かったです。ふたりともすごく仲はいいんですが、滑りに関してはすごいライバル関係だから、撮影中はいい意味でバチバチする雰囲気があるんです。「オレのほうがもっとできる」っていう主張をお互いにしていいものを残す姿勢からは、とても刺激を受けています。ファッションにもこだわっていて、ヒップホップを聴きながらめっちゃ悪そうな雰囲気が出ている、まさにストリートに生きるライダーって感じがカッコいいと思っています。

──17-18シーズンには海を渡り、サマーキャンプの聖地である米オレゴン州マウントフッドでも撮影を経験しています。世界中のトップライダーが集まる地でライディングを経験し、どのような刺激を受けましたか?

行ってみたはいいものの、もう圧倒されてしまったというのが正直な感想でした。行く前は「今のオレなら外国人相手でも魅せられるんじゃないか」と思っていて、けっこう自信もあったんですが、マウントフッドに集まっていたライダーたちの滑りを生で見ると、自分は完全に負けていると感じたのを覚えています。海外のライダーはみんな、ジブもジャンプもできて、さらにパイプライディングもカッコいいんです。自分はまだまだだと気づくキッカケになりました。ジャンプやバックカントリーのイメージが強いレッド(ジェラード)のライディングを見かけたんですが、ジャンプはもちろん圧倒的に高いしカッコよくて、その上でジブもめっちゃ乗れてるんですよね。海外に行くなら、ストリートだけじゃなくて、スノーボードそのものを全体的に上手くなる必要があると思いました。このサマーキャンプをキッカケに、バックカントリーも含めて海外のスノーボードの映像はなるべく追うようにしています。

──冬生はそれらの映像作品から具体的に、どのようなことを学んできましたか?

映像表現として自分の滑りを残すなら、ロケーションやアイテムの選定が技のチョイスと同じくらい重要だということです。ただ単にすごい技をやるだけ、っていうのはあんまり好みじゃなくて。例えば50-50でも、アイテムの形状やロケーションがよければ、フッテージとして化けることだってあるんです。例えば、ステンレスでできたレールはエッジが引っかかりやすいので、基本的に50-50しかできない。やりたい技ができないから、最初の頃は避けていたんです。今ではステンレスレールでもロケーション的にカッコよかったら、50-50でもやるようにしていますね。映像を観まくるようになったことで、最終的に残す画について、より深く考えるようになりました。

──これまで経験した撮影のなかで、もっとも印象に残っているものを教えてください。

海外のライダーが日本に来たときに映像を残していた有名なスポットで、21-22シーズンに「これはアイツらを超えたんじゃないか」と思えるような映像を残すことができたんですよね。ジェイコブ(クルッグマイア)がADIDAS(アディダス)クルー時代にやっていた、駐車場のワイヤーロープからダブルダウンのレッジにトランスファーできる形になっているスポットなんですが、ジェイコブはそのワイヤーからダブルダウンにトランスファーして、そのままメインスタンスでアウトしていたんです。スポットとしてカッコいいので僕も狙っていたんですが先に攻略されてしまったので、さらに難易度が高い技で超えるために、トランスファーしてレッジからのプレッツェル270オフを残しました。この撮影を機に、ほかの外国人が攻略したいと思うようなイケてるスポットに実際立ったとき、自分ならもっと違うラインで、もっと激しい技で攻められると思うことが増えましたね。海外ライダーとの間にあった壁を破ることができたタイミングだったと思います。

 

 

──見事ベストインプレッションライダー賞に選ばれたNISSAN X-TRAIL e-4ORCE RAIL JAMでは、攻め抜いたライディングで自身の存在をこれでもかというほどに主張していました。このコンテストにはどのような思いで臨んでいたのでしょうか。

ストリートのイベントが日本でまた開催されるなんて思ってもいなかったし、出るからには優勝するしかないと思って、出場が決まってからはいろんな人に「オレ優勝するから」って言っていたんです。言ったからには優勝するしかないじゃないですか(笑)。ほかの人がやらないような形で攻めまくって、とにかく優勝しかないと思っていましたね。「BURTON RAIL DAYS」(2011〜2015年に東京・六本木ヒルズアリーナで行われていたストリート大会)は僕もテレビで観ていたんですが、ああいう過去のジブイベントに出ていたライダーたちって、みんなその場をとにかく楽しんでいるように見えたんです。その姿勢を見習って、僕もとにかく楽しもうと心がけて滑っていました。

「自信がついた今、もっといろんな人に自分の滑りを見てもらいたい思うようになりました」

──NISSAN X-TRAIL e-4ORCE RAIL JAMで存在感を放ったからこそ、22-23シーズンの撮影にはいっそう気合が入ったことかと思います。振り返ってみて、どのようなシーズンだったのか教えてください。

ケガを恐れず、攻めまくったシーズンでした。怖いと感じたら「凌稀くんや真人くん、(米野)舜士だったら、ここビビらないんじゃないか」って自分に発破をかけて、逆に絶対にトライするようにしていましたね。22-23シーズンは特にSTONPの撮影が多かったんですが、雪がほぼなくなってきたタイミングで凌稀くんと舜士と行ったダムのスポットなんかは、めちゃくちゃ怖かったんです。狙っていたスポットではあったんですが、僕がもともとやりたかったラインには全然雪がついていなくて、急遽別のラインを探していたら、ありえないくらいの高さのところにレールがあって、そこからダムの壁にドロップするようなセクションを見つけて……。めっちゃ怖いけど、これをメイクしたらヤバい映像になるという確信はあったんです。ストリート人生で一番デカいスポットだったので1日以上かけて悩んだんですが、周りからのプッシュもありトライすることができて、4、5本目くらいでメイクしました。このスポットでの撮影も含めた22-23シーズンは、本当にひと皮剥けることができたシーズンでした。

──恐怖心とはどのように戦ったのでしょうか?

ストリートの撮影はまずセクションを整えるところから始まるんですが、ダムはすごく雪が溜まりやすいところでもあるので、このときはランディングをいい感じに整えるのに丸一日かかったんです。時間もかけたので、「これだけ雪を盛ったらいけるだろう」と思っていたんですが……。スタート台やリップを作りに上がって、作ったリップの先からさっきまで自分がいた場所を見下ろすと、ランディングがほぼないように見えるんです。下から見ていたときと上から見下ろしたときに感じる高さの差がハンパじゃなくて、正直足が震えました。その日は迷った結果、やらずに帰ったんです。でも帰ってスポットの写真を改めて見ていると、やっぱり画としてカッコいいし、ヤバい映像になるのは間違いないと思って次の日、気合いを入れ直してもう一度スポットに向かいました。ビビりながらなんとかラインに入ってみても、今度は予想より全然スピードが足りなくて、想像とのズレのせいで余計に怖くなっちゃって……。そんなときに凌稀くんと舜士、フィルマーのキヨくん(川崎清正)たちが、「絶対ヤバい映像になるよ!」ってプッシュしてくれたことがキッカケでドロップできたんです。ずっと憧れの映像プロダクションだったSTONPの撮影だし、「チャクるか死ぬか」なスポットにトライできてよかったと思っています。ちなみに実際ドロップしてみると上から覗いた感覚のとおりで、ほとんどランディングはありませんでした(笑)

──ストリートでの撮影の際、スポットの選定でこだわっている部分を教えてください。

海外のストリートの映像に出てくるスポットの街っぽさがすごく好きなんですが、日本のスポットって自然の中に人工物がある感じで、言ってしまえば田舎っぽいスポットが多いんです。少し前のシーズンまでは、そういうところがイヤだと思っていたんですが、今は逆に、その日本っぽさが出ているスポットを気にして見るようになりました。さっき話したダムのスポットもまさにそういうところで、周囲に自然がある中でダムをコスるっていうのは日本のストリートっぽくていいと思いました。あとは単純に、誰もやっていないスポットを攻略するのが一番好きですね。

 

 

──STONPでの撮影を通じて、冬生のスノーボード人生にもたらしたものはありましたか。

今までは自分の滑りにそんなに自信がなくて。でもX-TRAIL RAIL JAMで優勝できたり、ヤバいスポットで映像を残すことができたりと、自分の成長を感じることができたシーズンでした。スノーボードに対する自信が湧いてきたんです。もっといろんな人に自分の滑りを見てもらいたい。そのためにもっとヤバい映像を残し続けたい。そう思えるようになりました。

───今後の目標について教えてください。

ストリートはおじいちゃんになるまで続けていたいですね、それくらい楽しい、自分の好きなストリートをケガなく続けていきたいと思います。あとはスノーボードのすべてにおいて、もっと上手くなりたいです。ジャンプだったりパイプだったり、バックカントリーにも興味がありますし、スノーボードそのものが上手くなれるよう、次のシーズンは意識していきたいと思っています。

 
 

おわりに

音楽やファッションなど、あらゆるストリートカルチャーと密接に関わるストリートスノーボーディングの世界。若くしてその世界に魅せられた冬生がストリートにかける、アツい想いが伝わってくるインタビューだった。過去に海外のライダーたちが日本で残したフッテージを塗り替えることで世界レベルの実力を証明し、シーンにその名を轟かせていく。彼の現時点での集大成と言えるビデオパートが、この秋ローンチされるSTONPの新作に収録予定なので、要チェックだ。

 
 
鈴木冬生(すずき・とうい)
▷出身地: 愛知県春日井市
▷生年月日: 2000年11月29日
▷スポンサー: CAPITA、UNION、BLUNT、VANS、UKIYO、BEAVER WAX

text: Yuto Nishimura(HANGOUT COMPANY)

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