INTERVIEW
現シーンの礎を築き上げた名作『ROADKILL』初視聴の大学生インターンが編集長を直撃【Vol.2】
2023.08.15
1993年に発売された不朽の名作『ROADKILL』を初めて観た弊メディアでインターンを務める21歳の大学生・近藤碧音が抱いた疑問を、彼の親世代にあたる編集長・野上大介にぶつける本連載企画。Vol.1に引き続き、今回は当時流行ったトリックやファッション、ビデオの中で見つけたお気に入りトリックについての話題で盛り上がった。当時大学生だった編集長を魅了し人生を狂わせたほどの名作であり、この時代を知るスノーボーダーにとって語らずにはいられない存在であるROADKILLから、現役大学生スノーボーダーは何を感じ取ったのだろうか。フリースタイルスノーボーディングが確立してから2世代目に突入した今だからこそ、シーンの本質を改めて掘り下げる。
現代とは違うジビング時の“踏み方”について
インターン・近藤碧音(以下、アオト): ジブでのアイテムの踏み方が今とは違うと感じました。今は大体バインディングの下にレールを持ってきて踏む形が主流だと思うんですが、ROADKILLではボードのセンターでレールを捉えて、バランスをとるようにしてコスっています。それってスケートボードから受ける影響が濃いからじゃないですか? スケートボードだとボードスライド系のトリックって基本、真ん中で乗るじゃないですか。
編集長・野上大介(以下、野上): 90年代前半はスケートボードのトリックを雪上にトレースすることで、フリースタイルスノーボーディングが確立されていった時代。トラックとウィールがあるスケートボードでは足の位置で踏むっていうのはできないわけだから、最初はあくまでスケートライクな動きでやっていたんだと思う。
アオト: そのあとライディングが進化して、バインディングの下で踏むっていうスタイルが出てきた感じですかね?
野上: そうだね、オレが前職(TRANSWORLD SNOWBOARDING JAPAN)時代にハウツー本を作っていたとき、ライダーたちは「足裏でアイテムを捉える」という表現をしていたかな。ただ、このROADKILLが発売された90年代前半にジブのハウツー記事はなかったから、こういうビデオが教科書代わりだった。そういった映像を観ていたオレも、ボードスライドは真ん中で乗らなければいけないと思っていたよ。
アオト: いろんなトリックを雪上に持ち込んだんですよね、きっと。ボードスライドの次はスケートボードのノーズスライドの動きをマネて、「じゃあ今度はノーズ側のバインディングの下で踏んでみようか」みたいな流れというか。
野上: この時代はそういう流れだったんだと思う。スノーボードってもちろん、雪山というフィールドを自由に滑る遊びなんだけど、あの当時やっていた人たちの多くは、ストリートカルチャーの一部として捉えていたんだよね。だから、トリックもスケートボードのマネから始まるし、滑るときの格好も街着が多かった。
ストリートファッションに身を包んで滑るライダーたち。ウエアは着ないの?
アオト: 街着で滑っている人が多かったのは、映像を観ていて感じました。90年代前半に流行ったストリートファッションって、ネルシャツとかダボっとしたパンツですよね? この頃のスノーボーダーは、みんなそういう格好をして滑っていたんですか?
野上: 今でこそ当たり前のように撥水性のある街着風のウエアがあるけど、当時はそんなものなかった。加えて、スノーボードはストリートカルチャーの延長線上にあるものだったから、街着で滑ることがカッコよかったし、少なくともオレにとっては違和感がなかったんだ。ジェイミー・リンが好きだったこともあって、SESSIONSのスウェットを着てVOLCOMの普通のデニムパンツを穿いて、キャップを被ってサングラスっていう格好で滑っていたな。それでニュージーランドのめっちゃ吹雪いてるところを滑って風邪ひいたり(笑)。大学生のときでお金がなかったから、スノージャケットなんて買う必要ないでしょとイキっていたことが理由でもあるんだけど。
アオト: 若いスノーボーダーはお金ない、っていうのはずっとそうなんですね(笑)
野上: そうだね(笑)。お金はないけど毎年ギアは買い替えてたな。ファッション感覚だったから、ボードがヘタるとか壊れたから買い替えるんじゃなくて、ニューモデルのギアを使ってないとダサいと思ってた。
アオト: 僕もめちゃくちゃ金欠でも、新しいボードとかウエアとか、手を出しちゃいます。
野上: ブーツとバインディングは買えなくてもボードとウエアは買う。完全に見た目重視で、本当は足回りにこだわったほうが上手くなったのかもね(笑)。ストリートカルチャーの一部だから、ファッションにもこだわるのは当たり前の感覚だった。
30年の時を経て若者が一番“シビれた”トリック
アオト: 僕が一番イケてると思ったトリックは、ライダーまではわからなかったんですが、バックサイドにシフティしてルックバックインディの形作って、ランディングの手前でFS180返すっていうやつで……。
野上: それ、テリエ(ハーカンセン)じゃない? 何分くらいに出てきたトリック?
アオト: 冒頭のオープニングでも流れてきて、途中のパートにも同じ映像が出てくるんですよね。何分くらいだったかな……。
野上: レイト気味なFS180で、インディノーズボーンしてるやつでしょ。(映像を観ながら)これだ。合致した、テリエだよ。
アオト: これはめっちゃシビれましたね。この前友達ふたりとROADKILL観てたんですけど、みんな「このグラブやばくね?」って話してました。
野上: これは当時もすごいインパクトあったよ。覚えてるわ。色褪せないね、オレが18歳とか19歳のときに観て衝撃を受けたフッテージが、今の21歳にも影響を与えてる。当時はレイトスピンだとバックサイドが難易度的にも易しいから流行っていたんだけど、レイトでFS180をやってたのはテリエくらいだったかもしれない。
アオト: 次のシーズン、マジでやりたいです! ほかにも、スイッチバックサイド方向の動きもけっこう見かけました。スイッチBS180でメインスタンスに戻す動きとか、めっちゃ好きです。
野上: それも当時はスイッチって言ってなかったな。やっぱりフェイキーって言ってたよ。
アオト: スケートのカルチャーが本当に色濃く影響してるんですね!
Vol.3につづく
野上大介(左): 1974年生まれ。BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE 編集長。日本でフリースタイルスノーボーディングが形成され始めた92-93シーズンにスノーボードと出会う。
近藤碧音(右): 2001年生まれ。2022年度よりBACKSIDEにてインターンとして活動中。20-21シーズンにスノーボードを始める。スノーボードの歴史やライダーの生き方に興味津々な大学生。
text: Yuto Nishimura(HANGOUT COMPANY)