MOVIE
「これまで滑ってきたリスキーなラインのひとつ」と乳ガンに打ち克ったキミー・ファサニ物語
2022.10.11
2011年、女性ライダーとして初のダブルバックフリップに成功するなど卓越したフリースタイル技術を身につけると、バックカントリーにフィールドを移行。男性中心のムービーシーンにおいて、STANDARD FILMSやABSINTHE FILMSといった名門プロダクションに出演する数少ない女性ライダーとしてウィメンズシーンを牽引してきたキミー・ファサニ。その後、2016年には今はなきTRANSWORLD SNOWBOARDING誌が主催していた権威あるライダー授賞式「POLL AWARDS」において、WOMEN’S RIDER OF THE YEAR(最優秀女性ライダー賞)に輝き、プロとしてのキャリアの絶頂に立った。
彼女は14歳のときに父をガンで亡くしており、RIDER OF THE YEARに輝いた直後、母がガンで他界。それを契機として2017年、フリースキーヤーで夫のクリス・ベンチェトラーとの間に子宝に恵まれた。その際も、妊娠・出産の条項を契約書に含むようにスポンサーに働きかけるなど、アクションスポーツ界における女性アスリートの代弁者となっていた。
自身の本を出版し、不動産免許を取得。ふたり目の男の子を授かるなど、順風満帆なセカンドキャリアを送っている矢先に、胸にしこりを感じたキミー。2021年11月22日、ステージ3の炎症性乳がんの診断を受けることになる。全乳がんの約0.5〜2%程度という、発生頻度の稀なタイプの乳がんだった。
およそ10ヶ月に渡って6回の化学療法、両乳房の切除術、そして30回にも及ぶ放射線治療を行いガンと闘った、プロスノーボーダーであり、妻であり、母である、キミーの壮絶なストーリーが描かれている。
「見た目なんて関係ないということ。胸がなくたって、髪がなくたって、それでも私は素晴らしい母、素晴らしい妻、素晴らしいアスリートでいることができる。身体は変化するけど私の魂は変わらず、情熱を持ち続け生きるために闘い続けているのです」
また、過酷な闘病生活を前にして「生きる以外の選択肢なんて絶対にありえない。乗り越えられないかもしれないなんて、まったく思っていない。これまで滑ってきたリスキーなラインのひとつにすぎない。初めてのアラスカみたいなもの。あのときのほうがよっぽど緊張していたわ」という強い気持ちでガンとの闘いに挑んだのだ。
2022年10月1日、病理学的完全奏効(ガン細胞が完全に消失したことが確認された状態)を得られたキミーの魂は、きっと全スノーボーダー、いや、全人類の心を震わせるだろう。日本語字幕で観ることができるので、およそ15分間、彼女から発せられる一言一句に耳を傾けてほしい。