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スノーボーダーのオフトレにマウンテンバイク最強説をSPECIALIZEDで検証①ライディングセッション編
2022.06.03
ちょうど1年ほど前、この岡本圭司のツイートを見た筆者は、大手スノーボードブランドに務めていたT氏が自転車ブランドのSPECIALIZED(スペシャライズド)に転職していたことを思い出し、即レス。ここからすべてが始まった。
かつて一世を風靡したスノーボードチーム、FORUM 8をご存知だろうか。その一員だったジェレミー・ジョーンズが2017年1月、雪崩の事故によりライダー生命を絶たれてしまったのだが、SPECIALIZEDのE-マウンテンバイク(電動アシストマウンテンバイク)と出会ったことで生きる活力を得た、というストーリーを2年あまり前に記事にしていた。周知のとおり2015年2月、岡本は撮影中の事故により右足に麻痺が残る障害を抱えている。直感的に、岡本とSPECIALIZEDを結びつけたいという衝動に駆られたのかもしれない。
そして、同じ山の斜面を利用して遊べるスノーボードとマウンテンバイクを同日にセッションしようと、岡本率いるポータルアプリのyukiyama(ユキヤマ)とSPECIALIZEDが立案。4月某日、岡本のお膝元である長野・白馬に位置するマウンテンバイクの聖地・白馬岩岳に足を運んだ。
同じ斜面を利用して遊べるという新鮮味
同じ斜面を利用して遊べるという新鮮味
岡本がまず声をかけたスノーボーダーは、マウンテンバイクがライフスタイルの一部に溶け込んでいるプロスノーボーダー・小西隆文。スケートボードやスノーボードよりも先に、兄の影響で中学時代からマウンテンバイクにまたがっていたという、生粋のマウンテンバイカーだ。中学時代からマウンテンバイクでジャンプしていたということなので、小西のフリースタイルの原点は横乗りではなくマウンテンバイクにあると言って過言ではない。
当初は岡本と小西のセッションという話だったのだが、岡本が代表を務める、HAKUBA47や栂池高原のスノーパークを手掛けるTHE PARKS HAKUBAの一員であり、オフシーズンは白馬岩岳のマウンテンバイクコースの造成にも携わる土井雄士も誘った。かつて日本のムービーシーンの一翼を担っていた映像プロダクションをプロデュースする立場でもあった岡本は、当然ながら動画制作に対するこだわりが強い。自身のマウンテンバイク歴が浅いことから、ムービーの被写体として土井をアサインしていたのだ。
岡本を含めた3名による、スノーボード×マウンテンバイクのライディングセッションが始まった。2021-22シーズンは多くの降雪に恵まれ、撮影やレッスンなどを多忙にこなしながらパウダー三昧のシーズンを過ごしたという小西。かたや、北京パラリンピック・スノーボードクロスに出場して8位入賞を果たした岡本は、北欧やスイスなどハードパックなバーンでトレーニングに明け暮れていた。そうした対極のスノーライフを過ごしてきた彼らが、コーンスノーでのセッションで交わった。
「どっちも楽しすぎるから、両方を同じ日にやると集中できなくて。その分、楽しさが半減してしまうというか(笑)。でも、同じフィールドで違うスポーツを楽しむという経験は、これまでなかったですね。スノーボードで滑り終わってからスケートボードやSUPに行くっていうことはあったけど、スノーボードとマウンテンバイクは同じ斜面を利用して遊べる。これはすごく面白いなと思いました。バンクもあって、すごく似ていた」
岡本らしい表現で、この日のセッションを振り返ってくれた。
マウンテンバイクで得た経験が滑りに磨きをかける
マウンテンバイクで得た経験が滑りに磨きをかける
筆者もE-マウンテンバイクを借りてライディングさせてもらったのだが、山で乗るのは初体験。15年ほど前マウンテンバイクを購入しにショップに行った際、1974年に米カリフォルニア州で創業したという背景を知り、筆者と同い年であることに愛着が沸いたためSPECIALIZEDを購入した。そのとき、世界で初めて量産型のマウンテンバイクを世に送り出したスポーツ自転車ブランドだ、というショップスタッフからの説明に信頼性を感じたことが決め手となったように記憶している。そのマウンテンバイクにスリックタイヤを履かせて都内を移動していた経験はあったものの、実際に山で乗るとまったくの別物だった。
「パニックブレーキには気をつけてくださいね」と言われていたのだが、荒れた山道を下る難しさや恐怖、不安に苛まれながら乗っていると、いきなりコース幅が狭くなるやいなや思い切りブレーキング。右利きの筆者は前輪用のブレーキレバーを強く握りしめ、ジャックナイフでコース外へと滑落していったとさ……(笑)。同じことを2度繰り返して血だらけになると、「習うよりコケろ」精神でスノーボードにも取り組んできた経験からか、なんとなくコツをつかむことができた。マウンテンバイク界ではバンクのことを“バーム”と呼ぶようだが、もちろんできないものの、スノーボードのバンクをイメージしながら滑っている……もとい、駆け下りている自分に気づいた。
マウンテンバイクの魅力に気づき始めた筆者は、小西に共通点について聞いてみた。
「めちゃくちゃありますね。まずはスピード感。木の中をけっこうなスピードで走るんですけど、スノーボードよりも速いから、目がかなり鍛えられる。そのうえで、ラインどりがかなりシビアな状況が多いので、年をとってきたから衰えがちだけど動体視力は鍛えられていると思います。
あとはマウンテンバイクの場合はバームっていうんですが、バンクのラインどりもスノーボードのバンクドスラロームと同じですね。アウトから入っていくんですが、そのラインどりがよりシビアだからこそ、スノーボードに役立つことがいっぱいありますよ。
ジャンプはスノーボードよりも断然怖い(笑)。でも、スノーボードで飛んでいるからこそ、何もやっていない人よりも飛びやすいんじゃないですかね」
なるほど、スノーボードよりもマウンテンバイクのほうがスピードが速いのか……。絶対無理!と心の中で叫びながら、まだマウンテンバイク歴の浅い岡本にも尋ねてみると。
「小西くんはめちゃくちゃ速いですよ。ついていこうと思っても追いつかないし、全然レベルが違いますね。
クロスの練習のとき、バンクで早めに(インしたときと)反対側のエッジを入れるようにしているんです。このバンクだったらどれだけ早めにヒール(エッジ)を入れて、いかに後半をラクに抜くかって感じで練習しているんですけど、多分、あれと一緒ですよね。
スノーボードだったらなんとかなるけど、マウンテンバイクのほうが怖いから、違った感覚が研ぎ澄まされそうな気がします。でも、まだまだ素人だから、インから入っちゃってアウトで弾き飛ばされそうになるんですよ。斜めのところに入るのはめっちゃ怖いから(笑)」
4年後のパラリンピックに向けて、マウンテンバイクからのフィードバックがスノーボードに活かされるのでは?と問うと、「そうですね。全然あると思います」と力強く答えてくれた岡本。白馬にも拠点があるだけに、マウンテンバイクがライフスタイルに溶け込むことで、岡本のライディングスタイルにも好影響を与えるに違いない。
マウンテンバイクはフリーライディングと同じ感覚
マウンテンバイクはフリーライディングと同じ感覚
たった数時間ではあったが、彼らがマウンテンバイクにまたがっている姿を見ていると、スノーボードでフリーライディングしながらセッションしているのと何ら変わらないように感じてきた。岡本は小西のライディングについて、「さっき後ろから見てたんですけど、サイドに当てまくってるんですよ。無駄に横の壁に乗り上げてますもん。僕は怖くてできないですけど(笑)」と教えてくれた。
スノーボードとマウンテンバイクの共通項が意外にも多く見えてきたところで、スノーボード歴よりもマウンテンバイク歴のほうが長い小西の言葉に耳を傾けてほしい。より核心に迫ることができるはずだ。
「飛べるところでは飛ぶし、当て込めるところには当て込む。感覚的にはスノーボードの地形遊びと同じですね」
サイドウェイスポーツである、いわゆる横乗りのスノーボード。いっぽうで、正面を向いて乗るマウンテンバイク。スノーボードよりもスキーのほうが感覚は近いでしょ、というツッコミが聞こえてきそうだが、実のところマウンテンバイクにもスタンスがある。これは体験しなければ気づかなかったことだが、マウンテンバイクで下っているときの基本姿勢とは、ペダルを漕がずに地面と水平に保った状態のことを指す。このときにどっちの足が前に来るのかによって、進行方向に対しての身体の使い方が、前向きのスキーよりもスノーボードに似ているのだ。
次回のVol.2では、岡本と小西の対談をお届け。スノーボードとマウンテンバイクの親和性について、より深堀りしていく。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Holy