COLUMN
20年ぶりでも楽しめる。オッサンでも楽しめる。
2016.12.22
コイツがいたからカッコいいスノーボードに触れられたし、コイツがいたからスノーボードにのめり込んだし、コイツがいたから今の自分があるのかもしれない。そんな親友が、20年ぶりに雪上復帰を果たした。
遊びも勉強も恐ろしいほどに集中するタイプの人間で、ダンスにハマれば練習しまくってテレビ番組に出演するまでの腕を身につけ、goro’sのアクセサリーにハマれば高校生ながら高額のバイトを繰り返して全身に身に着けていた。彼とともに附属高校に通っていたため、大学に進学したらスノーボードを始めることを約束していた。
大学1年のときは通いで滑っていたのだが、お互いにハマった。2年目から雪山にコモろうという話になり、コモり先は日本のフリースタイル発祥地といっても過言ではない、長野・北志賀エリア。ソイツがリサーチした結果だった。民宿に格安で2食提供してもらいながら、バイトもせずに滑りまくる日々。貯金はすべてスノーボードにつぎ込んでいたため夜遊びもほとんどせず、ROADKILLをテープが擦り切れるまで観まくっていた。翌シーズン、彼は働きながら滑るスタイルに移行。ショップに所属していたわけではなかったので先輩スノーボーダーはいなかったのだが、ソイツはコモり先でライダーと呼ばれるスノーボーダーたちと接点を持ちはじめた。前年と同じ民宿からそのゲレンデに通うようになり、人脈だけでなく滑りの幅が急速に広がっていった。
ソイツは滑りも上手かった。しかし、大学4年になると将来を見据えて方向性が分かれることに。筆者は就職ではなく滑り続ける道を選択し、彼はMBA(経営学修士)を取得するため猛勉強に走った。卒業後、彼は渡米したのでライディングすることを薦めたが、前述したような集中力の持ち主のため、MBAを確実に取得するためスノーボードを完全に断ち切ったのだ。
MBA取得後、日本で働いていた時期もあったのだが、昨年から南カリフォルニアのアーバインという街に住んでいる。就職後、仕事柄なのかゴルフにハマり、毎週のようにコースに出ていたようだが……。そんな彼が、上写真のロケーションでもあり、ROADKILLの撮影ロケ地でもあった憧れの場所・カリフォルニア州のベアマウンテンで、20年ぶりにスノーボードにまたがったのだ。
ボードももちろんなのだが、特にバインディングとブーツの進化には驚いていた。その進化が手伝ってか、1本目から思ったよりも滑れたそう。何本か滑っているうちにカービングで板をグイグイと走らせる感覚を取り戻し、最終的には小さなギャップで180を繰り出せるまで身体が思い出してきたようだ。ソイツの頭の中はROADKILLで止まっているだけに、アラフォーながら、シフティからのレイトBS180をカッコよく決めたかったんだって(笑)。ベアマウンテンといえばパークのメッカでもあるわけだが、その充実ぶりにも驚嘆していた。
何が言いたいのかといえば、スノーボードはあらゆる世代やレベルで楽しめる遊びなんだということ。ソイツと滑っていた頃、ROADKILLを巻き戻してはトリックの研究ばかりしていた。しかし、今は違う。彼の言葉を借りれば、オッサンになってから滑ること自体の楽しみを味わってしまった感覚のようだ。加えて、意外と滑れるじゃん!という喜びを感じられたことで、再びハマっていったのである。
様々な事情でスノーボードから遠のいてしまった人は多いだろう。でも、それほどまで高くないハードルを乗り越えるだけで、昔のように楽しめる遊びなんだ。
ソイツの名前はケンゾー。ケンゾーは近い将来パウダーを狙うべく、同州に位置するマンモスマウンテンを目指すと言っている。その前に基礎スキルを取り戻し、パークでストレートエアが飛べるくらいまで調整していくという目標を掲げていた。あとケガをしないために、毎日のストレッチを始めている。
筆者は第二次ベビーブーム世代であり、スノーボードが市民権を獲得するための原動力となった世代である。データとして調べたわけではないが間違いなく、スノーボード経験者が圧倒的に多い世代だ。
余談として、ケンゾーから送られてきた写真を見ると、あの頃と変わらないスタイルでネルシャツを身に纏っていた。当時はリアルネルシャツやリアルデニムで滑っていたわけだが、今はストリートテイストを醸し出した高機能ウエアが多くラインナップされている。そうした意味でも、ファッションに敏感なオッサンたちが戻ってきやすいのかもしれない。
これらのメッセージが、同世代の元スノーボーダーたちに届くことを願う。
rider: Denis Leontyev photo: Dasha Nosova/Red Bull Content Pool
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.67」(2016年2月18日公開)を加筆修正した内容です