BACKSIDE (バックサイド)

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MAGAZINE

弊誌 ISSUE 5「夢への歩み」第1章【全文公開】

2018.10.12

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代官山 蔦屋書店にて弊誌初となる実店舗販売がスタートしたことを受け、2016-17、2017-18の2シーズンに渡り発刊してきたISSUE 1~6のうち、写真集であるISSUE 6を除いた5号分の第1章に綴った全文を日替わりで公開。

 

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EPISODE 1

オリンピック競技とスノーボード文化のはざまで

 「日本でオリンピックを目指すことは、スノーボードの文化価値で考えると完全に別物ですよね。オリンピックはもっと社会的なものっていうか、違うスポーツなのか?って思うくらい理解しなきゃいけないものが多い。そこで自分のスノーボードをすべて表現するのは、かなり難しいことだから」
 
 2017年8月、歩夢が生まれ育った故郷である新潟・村上を訪れた。彼の父である英功さんが設立や運営に携わっている日本海スケートボードパークで4歳の頃からその腕に磨きをかけてきたという話は、2014年のソチ五輪の際に多くのメディアが取り上げていたのでご存知の方も多いはずだ。
 
 現在はそこに隣接する形で、足場を組んで造られたスノーボード用のバッグジャンプ(アプローチに人工芝、着地部にエアバッグを敷き詰めたジャンプ練習施設)が存在する。そこで、マスメディア向けに公開練習を行って囲み取材を受けるというタイミングにお邪魔させてもらった。数多くのテレビカメラが“平昌五輪の金メダル候補”である歩夢を追いかける現場を目の当たりにしたわけだが、アスリートとしてここまで世間から大きな注目や関心を集めた前例はスノーボード界にない。そうしたことを踏まえて行った直後のインタビューだっただけに、冒頭で綴った本音が思わず飛び出したのかもしれない。
 
 「スノーボードの文化っていうのはカッコいいスタイルを大事にしていて、そこにこだわってる人が多いじゃないですか。オレもスノーボーダーとしてカッコいい滑りで表現したり自分のスタイルを貫いてやりたいけど、コンテストライダーとしてこっちの道に進んだことで自分の可能性が広がった分、そういった気持ちが真逆に傾きました。そのためにはカッコ悪いこともしないといけないし、本意じゃない自分を出していかないとこの世界では通用しない。そういったことは多々ありますね」
 
 現在のフリースタイルスノーボーディングの系譜をたどっていくと、その根源としてアメリカ西海岸で派生したカウンターカルチャーだった時代が挙げられる。ニュースクールと称された90年代初頭に巻き起こったムーブメントになるので歩夢が生まれる以前の話になるのだが、フリースタイル気質に富んだ自由奔放なスケーターたちが挙って雪山に足を踏み入れたことで、80年代は競技一辺倒だったスノーボードシーンに風穴を空けたのだ。
 
 このムーブメントが日本に輸入されたことで爆発的なブームが到来するわけだが、以来、自己表現を重んじる文化価値が一般化した。映像や写真を通じて己の表現を形にするために撮影活動を重視するライダーたちが、スノーボード界では是とされるようになったのだ。
 
 90年代は並行して大会に参戦することがスタンダードではあったものの、1998年の長野五輪からオリンピックの正式種目として採用されたことが大きく後押しし、20年の時を経て競技レベルは加速度的に高まっていくことに。高難度なトリックに個性を投影することは難しい反面、根本にある価値観は変わっていないため、プロ活動と競技活動とが乖離している現状があるわけだ。
 
 「これまでは自分よりも上に誰かがいて、“こうだからカッコいいんだな”って参考にできることもあったけど、今ではそういうライダーも少なくなってきてるし、今から自分が進もうとしていることに対して、それが合ってるのか間違ってるのかがわからなくなって不安になることがしょっちゅうあったんです。カズ(國母和宏)くんとかいろんなカッコいい人たちがソチ五輪の前までは大会に出てたけど、今はコンテストシーンからも退いてるからオレたちだけで戦わないといけない。そうなった以上、不安を感じながらもしっかりと見極めて、冷静に考えていかないといけない部分もあります」
 
 前例がない。歩夢の目標は金メダルを獲ること。これにほかならない。2006年トリノ、2010年バンクーバーと2大会連続でオリンピックの舞台に立った歩夢の師匠にあたるカズでさえ実現することはできなかった。当時のカズはバックカントリーでの撮影活動も同時進行で行っていたわけだが、あの時代よりも著しく競技レベルが高まっているなかで頂点を目指すということは、コンテストだけに集中していても並大抵の努力では成し得ない偉業だ。
 
 「昔はヘルメットを被らないで滑ってるライダーたちがカッコよかったりしてたんですけど、今(の競技レベル)では被らなきゃできない時代になってる。幼い頃に“カッコいいな”と思ってたスノーボーダーとは違う自分がいるし、勝たなきゃいけない世界で生きてるからこそ、カッコいいとかカッコ悪いとか、そういうのを捨てないと(オリンピックでの金メダルを)目指すことが難しくなってます。オリンピックっていう小さい頃からの目標が、いろんな意味で自分のスノーボードに大きな影響を与えてるんだってことをすごく感じていて……。そういうことを理解するのにすごく時間がかかりました。でも、やっぱりスノーボードしかないし、すべてがこれにかかってるから、人一倍こだわって考えて滑るのが一番いいのかもしれないなって」
 歩夢にとってオリンピックでの金メダルは幼い頃からの夢だ。その夢は、ソチ五輪で銀メダルを獲得した4年前から目標に変わった。オリンピックに限らず、X GAMESアスペン大会やBURTON US OPENといったプロ大会も含め、ハーフパイプの世界で頂点に立つこと。今はすべてを投げ打ってそれしか考えていない。
 
 「バックカントリーですか? そういった活動をしたことがないからまだ内容は全然理解できてないんですけど、バックカントリーで自分の映像を残したりすることはいろんな自由が広がっていて、こだわって納得できるパートを制作する活動はすごくいいなって思います。でも、オレが今やってる活動っていうのは自由のない正反対の方向性じゃないですか。頂点を目指すためにやりたいことを捨てて、自由がきかない不自由な場所に自分を追い込んでるわけだから。逆に言えば、自由な方向にはいつでも行けるけど、自由じゃないスノーボードっていうのは今のオレの立場でしかできないことでもあると思うんです。だから、最終的には自分のやりたいことを貫ける場所でライディングしたいと思うんですけど、今はプライドや気持ち、そしてスタイルを持ってコンテストの世界で自分を確立させてから、いつでもそっちの世界へ行けるようにしておきたいんですよね。私生活でも共通してる部分があると思うんですけど、やりたくないことを生活のなかに取り入れるのは難しくて、ほとんどの人がやりたいことをするわけじゃないですか。やりたいことっていつでもできると思うんですよね。だから、オレはパイプや大会を選んできたんです」
 
 競技を経た先にある将来のスノーボーダー像について訊いた際の答えなのだが、歩夢の確固たる信念をうかがい知ることができた。
 
 現在の競技レベルでトップに君臨する傍らで、先述したようにいわゆる自己表現に重きを置いた撮影活動を行っているライダーはひと握りだ。2015年にRED BULLより『IN MOTION』を発表したマーク・マクモリス、2017年にX GAMESから『HAIL MARY』をリリースしたベン・ファーガソン。彼らはバックカントリーでのライディングを映像作品として残した。さらに、PEACE PARKをプロデュースしパークライディングの新たなる可能性を追究しているダニー・デイビス。マークは種目が異なるものの、ベンとダニーは同じくハーフパイプライダー。彼らの存在は歩夢の目にどのように映っているのだろうか。
 
 「スノーボーダーが憧れるスタイルを持ってますよね。当然、オレもそういう風に見てる部分もあるんですけど、カッコいいライディングで魅せるスノーボーダーって世界中にたくさんいるじゃないですか。逆に、カッコよさを犠牲にしてまでも自分と戦ってるヤツは少ない。このスタイルの違いはオレのなかで明確に分かれていて、だから、あえてこっちの道を進もうっていう考えでもあるんですよね」
 
 コンテストに全霊を傾け、パイプライディングに集中しているだけに、自負心も自信もあるうえで覚悟を決めて臨んでいるわけだから、彼らには絶対に負けたくないという気持ちが強いはずだ。
 
 「いや、何とも思わないですね。むしろ、彼らのようにこれまでのスノーボード文化を貫いてる人たちがいるからこそ、オレは自分の道を進もうっていう気持ちが固まったのかもしれない。オレの場合は自分が思うカッコいいことをやるのを後回しにしてるだけで、順番が違うだけのつもりなんです。それもスタイルなのかなって思います。だから、いろんな個性とかスタイルを持ってる人がいるからこそ、オレも自分のフィールドでやれてることにすごく感謝してます。いつか、そういうものがすべて共有できるはずだから」
 
 悩みに悩んだ結果として導き出した答えなのかもしれない。プロスノーボーダーとしての将来を見据えたうえで進むべき道のりの通過点に、オリンピックでの金メダルを設定したということだ。
 
つづく
 
 
ISSUE 5 WALK TO THE DREAM ──夢への歩み── A4サイズ / フルカラー / 日本語・英語 / 140ページ

 

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