BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

X GAMES史上最年少となる13歳で金メダルを獲得した村瀬心椛の真価

2018.05.21

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日本時間の5月20日未明、ノルウェー・オスロで開催されたX GAMESビッグエアにおいて、13歳の村瀬心椛が金メダルを獲得したというニュースが世界中を駆け巡った。これまでは平昌五輪ハーフパイプ金メダリストのクロエ・キム(アメリカ)が14歳で頂点に立ったのがX GAMES史上最年少記録だったのだが、それを塗り替える歴史的快挙となったわけだ。
 
思春期前期は女性のほうが成長が早いと言われていることからこうした記録なのかもしれないが、一方男子は、平昌五輪ハーフパイプで銀メダルを手中に収めた平野歩夢が14歳のときに2位となったのが同大会での最年少記録だ。また、大会は異なるものの國母和宏も14歳のときに、同レベルかそれ以上と言われているBURTON US OPENハーフパイプで2位となり世界中を驚嘆させた。
 
ちなみに欧米で若い時分から活躍しているライダーの代表格と言えば、キッズ時代は名門フィルムプロダクションに取り上げられ、オリンピックではこれまでに3つの金メダルを獲得しているショーン・ホワイト(アメリカ)だ。彼の場合は15歳のときにX GAMESで2位、16歳でBURTON US OPENを制するなど輝かしいデビューを飾っているが、もっともベテランということもあってか前述した4名に比べると少しだけ遅れて大舞台で表彰台に上っていたことになる。
 
これらのリザルトから見えてくるのは、クロエが韓国系アメリカ人であることを踏まえると、アジア人のフィジカルはフリースタイルスノーボーディングに適しているということ。そして、若くして華々しく好スタートを切った彼らは、その後もシーンを牽引するプロスノーボーダーに成長しているのだ。
 
競技活動の傍らで、高校生の頃から世界中のバックカントリーで撮影活動を続けてきたカズは29歳となり、今やムービースターとして世界のトップに君臨する。その愛弟子として2大会連続でオリンピック銀メダルを獲得した歩夢が新たなる挑戦としてこの春、カズとともに撮影活動を行うという新展開も見られた。
 
その歩夢は19歳で迎えた五輪シーズン、最高難度であるバック・トゥ・バックのダブルコーク1440を世界で初めて成功させるなどハーフパイプシーンを牽引する立場に成長しており、先日フロントサイド1260を女性として初めて成功させた18歳のクロエもまた、順調すぎる進化を遂げている。
 
X GAMES史上最年少ゴールドメダリストという大偉業を成し遂げた13歳の心椛は、種目の異なるハーフパイプで名を馳せた彼らに続くことができるのだろうか。世界初となるバックサイド・ダブルコーク1260を決めての快挙であり、日本のスノーボードシーンの特性からも彼女のジャンプばかりに目がいきがちだが、BURTON US OPENで世界中に示したジブの上手さも特筆すべきだ。
 
世界最高峰のビッグエアコンテストとして知られるAIR+STYLEの北京大会で当時16歳の角野友基が優勝したことで、彼の練習拠点だった雪を必要としないマットジャンプ練習施設に大きな注目が集まった。今ではフランチャイズ化して全国に点在しており、そこでトレーニングに明け暮れている若手ライダーは数知れず。これまでのビッグエアシーンでは角野ひとりが世界と対等に渡り合ってきたわけだが、心椛とともにX GAMESノルウェー大会で男女ダブル優勝を飾った大塚健も然り、平昌五輪ビッグエア女子で4位に輝いた岩渕麗楽など、男女ともにビッグエアのレベルは世界トップクラスに近づいている。
 
しかし、他国に比べてスケートボードが文化として根づいておらず、高難度なジブアイテムに対するリゾート側の規制が強い日本のスノーボードは、ストリートスノーボーディングを生業としている一部のライダーを除いてジブのレベルは遅れをとっている。だが心椛は、ジャンプだけでなく室内ゲレンデでジブのスキルも体得してきた。これこそが彼女の強みであり、2022年の北京五輪を目指す心椛はビッグエアだけでなく、スロープスタイルでの好成績も期待できるのだ。
 
さらに言えば、将来的にはストリートにまでフィールドを広げられるポテンシャルを秘めているだけに、オールラウンドなライディングスタイルで表現できる世界的にも稀有なプロスノーボーダーになり得る逸材なのかもしれない。
 
彼女はどのようなスノーボードライフを描いていくのか。筆者のような凡人には想像も及ばないわけだが、間違いなく、ガールズシーンの歴史を塗り替える存在になる。

text + photo: Daisuke Nogami(Editor in Chief)

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