BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

なぜメソッドエア限定写真集「THE ART OF METHOD」を作ったのか。

2018.05.08

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2017-18シーズンの最終号となる弊誌ISSUE 6「THE ART OF METHOD ──美しき自己表現法──」で綴った前文を公開。なぜ写真集を作ったのか? なぜメソッドエア限定なのか? その理由をご一読いただきたい。

 

──美しき自己表現法──

これまでの固定概念が冒頭から崩されることになるので、目からウロコという読者諸兄姉もいるのかもしれない。日本では“メソッド”と“トゥイーク”は異なるグラブトリックとして周知されているが、そもそも“トゥイーク”という技は存在しない。みなさんが日頃からトゥイークと呼んでいるトリックは、実のところメソッドに“ひねり(トゥイーク)”を加えたスタイルを指す言葉だったのだ。
 
かく言う筆者もその事実を知ったのは、今からおよそ5年前のこと。世界最大手とされるスノーボード専門誌の日本版に従事していた際にトリックハウツーのアプリを制作し、バイリンガル機能を設けたため英文の校正をアメリカの編集部に依頼。トゥイークと表記していたトリック名がメソッドに直されて戻ってきたことで認知したのだ。
 
そこで調べたところ、日本最古のスノーボード専門誌(現在休刊中)がトリックにフォーカスした別冊を1993年に発刊しているのだが、その時点ですでにメソッドとトゥイークは別トリックとして扱われていた。1992年の冬にスノーボードを始めた筆者にとってトゥイークはいちトリックであったわけだから、多くの日本人スノーボーダーは誤った認識で滑り続けてきたということになる。
 
あれから20年以上の月日が流れてしまったが、こうして改めて取り上げる価値があるほど、メソッドはグラブトリックの象徴的な存在であり、自己表現に重きを置くフリースタイルスノーボーディングにとって欠かすことができない技なのだ。
 
そして現在。2018年は日本国内においてスノーボードが過去最大の注目を集めた。言うまでもなく、4年に一度のオリンピックイヤーに平野歩夢を筆頭としたライダーたちが活躍したことを受けての結果である。
 
競技としてのスノーボードは大きくフィーチャーされ、多くの感動が日本中に届けられた。スノーボード競技の魅力は十二分に発信されたが、ダブルコークやトリプルコークが主である以上、“やりたい”スポーツとして捉えることは若年層を除いて難しいのかもしれない。
 
さらに言えば、スノーボードの競技化が加速していくことでトリックの高難度化が急がれているため、勝つためには同じ技を同じようなカタチで繰り出さざるを得ないケースも多々ある。よって、スノーボーダーたちの“個性”が死んでしまうことに対する懸念の声が世界中でささやかれているのも事実。
 
だからこそ伝えたいと考えた。これらを踏まえたうえで、小誌ISSUE 6「THE ART OF METHOD ──美しき自己表現法──」を贈る。
 
日本では、メソッドにトゥイーク(ひねり)を加えるグラブがいちトリックとして長きに渡って浸透していることは先述したとおりだが、だからこそ同じ技でも多様だと言える。身体の反り方やグラブしていない手のかざし方だけでなく、トゥイークを加えることで個々のオリジナリティが表現しやすくなるからだ。十人十色、百人百様、千差万別、千種万様などと言ったように、ライダーそれぞれの個性(スタイル)が投影される唯一無二のトリックと言っても過言ではない。だからこそ、習得するまでに数シーズンを要するほど難易度が高い高回転3Dスピン以上に価値があるとも言えるだろう。
 
スノーボードにおけるグラブトリックのルールは厳格だ。例えばインディ。後ろ手で両足間のトウサイドをグラブするこのトリックは、前足をポークする(伸ばす)ことでスタイルを強調できるが、そのためにはボードをつかむ後ろ手をなるべく後方へズラしたほうが体勢が窮屈でなくなるためやりやすい。
 
だが、後ろ足より少しでもテール側をつかんでしまうと、それはインディではなく“ティンディ”となってしまい揶揄されるのだ。これはステイルフィッシュにおけるテールフィッシュもヒールサイドをつかむこと以外は同様。容易にカッコよさを手に入れることができてしまうからこそ“ダサい”とされるのだ。
 
しかし、なぜか前手でヒールサイドをグラブして身体を反るメソッドに関しては、進化の過程においてなのか両足間だけでなく前足よりも少しだけノーズ側をつかむことがタブーとされていない。手足は逆になるがインディを例に出して説明したように、前足よりもノーズ側を前手でつかむことが許されているため、後ろ足をより自由に使えることからポークしやすくなる。だからこそ、ほかのグラブ以上に個性を発揮しやすくなるわけだ。
 
さらに深掘りしていきたい。フリースタイルスノーボーディングそのものがそうであるようにメソッドも例外なく、スケートボードでのそれが前身となっている。
 
時は1985年、クリエイティブなスケートボーダーのパイオニアとして知られるニール・ブレンダーはバートランプのハイエアコンテストにおいて、グラブトリックの王者となった。当時のルールでは、エアの高さはコーピングから足の位置までを計測していたため、いかに足を高く上げるかがカギを握り、バックサイドエアの最中にどのようにしてヒザを曲げるかが最重要課題に。それが優勝するためにベストな“方法”だったとニールが語ったとき──この技が命名された瞬間だった。メソッドとは“方法”を意味する言葉。これがトリック名の由来である。
 
そして、現在でもレジェンドスケーターとして崇められているクリスチャン・ホソイがメソッドでハイエアの記録を塗り替えたことで浸透していき、やがてスノーボーダーたちが雪山で応用するようになった。
 
1986年、米カリフォルニア州タホの天然クォーターパイプにおいて、テリー・キッドウェルがスノーボードの歴史における初期のメソッド(P49)を生み出し、その後、クリス・ローチが放ったグラッサー・メソッド(P47)は次世代のライダーたちに絶大な影響を与えることに。クリスの故郷であるカリフォルニア州グラスバレーがその名に由来しているそうだ。
 
メソッドは先に述べたように、両足間だけではなく前足の少し前方をつかむことが許されている。テリーやクリスのスタイルを尊重してのことなのかどうかはわからないが、このグラブ位置の選択についてはあらゆる議論が交わされてきた。欧州は前足のやや前方をグラブする傾向が強い反面、北米では両足間をグラブするノースウェスト・メソッドが絶対であり、それが唯一の“やり方”だと言われてきたのだ。
 
そのシンボル的存在であり、メソッドにトゥイークを加える美しさを世界中に普及した第一人者。それは間違いなくジェイミー・リンである。ノーグローブで両足間をグラブしながら美しすぎるひねりを加えたメソッドトゥイークは、世界中のスノーボーダーたちを虜にした。往年のスノーボーダーであれば強く賛同していただけるだろう。
 
あれから20余年。近年撮影された写真(P22)をご覧になればわかるように、ジェイミーのそれに変化が表れている。2013年12月に発刊されたアメリカの専門誌で彼は、次のように語っていた。
 
「最近はいつも、前足よりも前方をグラブしているよ。だってそれが、バートランプでバックサイドエアをやっていたときのカタチだから」
 
勝つために最適な“方法”だったメソッドは、いつしか己を表現するために最良な“方法”へと変化していった。そして、その表現方法は時代とともに移り変わっている。
 
平昌五輪ハーフパイプで銀メダルを獲得した歩夢と金メダリストとなったショーン・ホワイトの激闘を振り返る際、「なぜ歩夢はファーストヒットでスピンをしなかったのか?」と一部の業界関係者が疑問符を投げかけていた。スピンの回転数の総数でショーンが上回ったことが勝因という見解だったため、このような話の展開になっていたようだ。
 
だが、そうではない。スノーボードがオリンピック種目に選ばれて競技化が加速したことは言うまでもないが、正式種目と化した長野五輪が行われた1998年に生まれた19歳の歩夢が、現在のスノーボード競技に対するアンチテーゼとして“あえて”バックサイドエアを放ったということを知ってほしい。そこには、スノーボーダーとしてのスピリットが宿っている。高さと美しさを武器に“己を表現”するためであり、その後に4連続で超大技を入れることで“勝つ”ためでもあったわけだ。そのファーストヒットで繰り出された巨大エアに選ばれたグラブは、メソッド──。
 
1970年代、世界同時多発的に開発が推し進められたスノーボードは80年代に入ると、ハーフパイプやタイムレースといった競技としての道を歩み始めることになる。コンテストシーンで頂点を極めたクレイグ・ケリーは1992年に競技からのリタイヤを表明すると、フィルミングをはじめとするメディア活動にプロとしての価値を模索し始めた。自らの滑りを映像や写真に残すことを生業とする現在のプロスノーボーダーとしての在り方を創造した彼の功績は計り知れない。
 
一方で、スケートボードに精通したアメリカ西海岸の若者たちがニュースクールと称された巨大ムーブメントを巻き起こし、現在に通ずる礎を築き上げたのもちょうどこの頃だった。
 
クレイグもそう。ニュースクールムーブメントを牽引したジェイミーもそう。彼らが繰り出したメソッドこそが、フリースタイルスノーボーディングの代名詞と言っても過言ではない。こうしたメッセージが四半世紀の時を経て、今なお受け継がれているという真実。
 
1986年から2018年の30年余りに渡って世界各地で撮影された幾多のメソッドから厳選した写真集「THE ART OF METHOD ──美しき自己表現法──」をお届けする。観て、そして感じてほしい。
 
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE
編集長 野上大介
 

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「THE ART OF METHOD」を締めくくる写真は、弊誌ISSUE 0の表紙を飾ったインゲマー・バックマン

 
 
ISSUE 6 THE ART OF METHOD ──美しき自己表現法── A4スクエアサイズ(210mm×210mm) / ハードカバー / フルカラー / 日本語・英語 / 96ページ(中面)
※ISSUE 4「STYLE IS EVERYTHING」とISSUE 5「WALK TO THE DREAM」の3号セットでのオンライン限定販売になります
※ISSUE 1〜3も引き続き発売中です

 

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