BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

上田ユキエの全米選手権ルポ Vol.3「アメリカの子供たちが強い理由」

2018.04.28

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アメリカ・カリフォルニア州マンモスマウンテンに居を構え、息子とともにライディングに明け暮れている上田ユキエ。1998年の長野五輪ではハーフパイプ日本代表の座を射止めるべくW杯を転戦するなど、コンペティターとしての20代を過ごしてきた。しかし、以降は映像制作やフリーライディングを追究するためにコンテストからは遠ざかったスノーライフを送ることに。そして、長野五輪から20年が経過した2018年。ユキエは再び大会に挑むことになった。40代半ばを迎えて出場した全米選手権。そこで彼女が感じたこととは。

 

小さな勇者たち

アメリカの場合、国内シリーズ戦の子供カテゴリーは“キッズクラス”とひとまとめではない。7歳以下、8~9歳、10~11歳、12~13歳……と細かく分けられ、近い年齢同士で切磋琢磨しながら戦うのだ。私は主に息子が出場するクラスを観戦していたので、5~7歳、8~9歳の部を観ていたのだが、どの種目も驚くほどのレベルの高さだった。
例えばハーフパイプ。小さな彼らにとってはスーパースーパーパイプである。勢いよくリップを抜けて、がっつりポークしたインディや反りまくったメソッドが小さな身体から繰り出された。もちろん360、キャバレリアル、540、縦回転を出さなくては表彰台には上がれない。
スロープスタイルでも、そのレベルの高さは目を見張るものがあった。2ウェイのキッカーが用意されていたのだが、小さな女の子も果敢にビッグキッカーを飛んでいる。ジブアイテムでは50-50で抜くだけでは得点が伸びないし、もちろんキッカーでも回転技を出さなくては表彰台に届かない。これがこの年代の子供たちのレベルなのかと、その次元の高さに驚嘆させられる。
一番興奮したのはスノーボードクロスだった。私も躊躇した本格的なコースで、大人顔負けのバトルが繰り広げられる。激しい接触や転倒もあるが、それでも起き上がって全力で戦う子供たち。
レールジャムではナイター照明の中、ハイクアップしながら果敢にハードコアなアイテムを攻める小さな勇者たちの姿。それはもう立派なアスリートの姿であり、とても子供たちとは思えなかった。
 

HikeUp

 
ティーン以上になってくると、フリースタイルとスピード系と乗るボードの種類も滑りのスタイルも分かれてくるのものだが、この年代の子供たちはフリースタイルもレース系もどちらもトップにいる子たちが多い。体格の違いももちろんあるが、要は“板に乗れている”かどうかなのだ。
今大会の7歳以下クラスで表彰台の真ん中に何度も立ったのは、マンモスチームの仲間であるウォルター・キム(7歳)だった。彼は韓国系アメリカ人で小柄なのだが、白人の体格のいい子供たちに混ざっても彼のバランス感覚と安定性は際立っていた。
 

Podium

 
ハーフパイプ、スロープスタイルと制し、体重が重いほうが有利だとされるスピード系のレースでも彼は優勝したのだ。ウォルターは堂々とオーバーオールチャンピオンの座を手にした。先日のオリンピックで金メダルを獲得したクロエ・キムもそうだが、アジア系アメリカ人の大いなる可能性を感じた瞬間でもあった。
我が息子や仲間たちにもそれぞれにドラマがあり、子供たち同士の友情を超えた戦いもあった。まだ小さな勇者たちの勇敢な姿を目の当たりにし、感動するとともに刺激を受ける大会でもあった。
 

日本とアメリカでは親の意識に違いが

今回、アメリカ各地から選ばれたトップ選手が集まる全米選手権を観て、マンモスマウンテンのキッズのレベルの高さを実感した。タホ、オレゴン、シアトル、開催地であるコロラドなど名だたるリゾートで滑り込んでいる子供たちも、もちろん強豪だ。
しかし、その中でもマンモスチームは特別な強さを誇っているように思えた。事実、アメリカのオリンピック代表選手にはマンモスを含む周辺のカリフォルニア出身者が多い。ハーフパイプではショーン・ホワイト、クロエ・キム、ケリー・クラーク、グレッグ・ブレッツ、マディ・マストロ、スロープスタイルではブランドン・デイビス、ブロック・クラウチ、ヘイリー・ラングランド、エリック・ボーシュマン……など。マンモスに常設されているパイプやパークアイテムのクオリティの高さが要因なのだろうか。
私は今シーズン、マンモスマウンテンで息子とその周りの仲間たちを見てきた。日本とアメリカではキッズスノーボーダーと親の意識に違いがあるのだが、それはいったい何なのだろうか。もちろん、各家庭によって貧富の差はあるし、それぞれで行動も違う。しかし、裕福かそうでないかよりも国柄による違いのほうが大きいように感じる。
 

KidsSnowboarders

 
私の視点だが、アメリカの親は子供をコーチやチームに任せ、子供自身にやらせている印象が強い。大会や遠征に親は旅行気分で喜んでついていくし、我が子の映像を撮りながら「イェー! イェー!!」叫んで応援している。ただ“技術を教える”だけのコーチングやスクールとは一線を画しているのだ。
総合優勝したウォルターの母親もスノーボードが大好きで、シーズン中は子供たちを預けた瞬間に「さあ、滑りに行きましょう!」と大張り切りだ。普段から子供が練習している間はビデオを構えてその様子を監視しているわけではなく、自分たちはスノーボードやショッピング、レストランで楽しんでいるというのが、大半の親の印象である。肝心のコンテストや晴れの舞台では親同士が顔を合わせることが多いけれど、それでも「今日は仕事だから」と親は不在で、ほかの大人やコーチが子供を連れてきている姿も珍しくない。
 

KidsSnowboarders2

 
文化や環境の違い、コーチやチームの体制の整い方も異なるだろう。私自身も自分が息子にスノーボードを教えてきた。でもここへ来て、親ではないコーチから教わること、同世代のチームの中で切磋琢磨しながら学ぶことには、ここでしか得られない貴重な価値があると強く感じている。
全米選手権。開会式には大勢の参加者が集まり、各地の代表選手たちのパレードが行われた。まるでアメリカ国内のオリンピックだ。メダルの授与にはクロエ・キムをはじめ、オリンピアンも登場した。彼女らもまた子供の頃から、このUSASA(United States of America Snowboard and Freeski Association)の大会で戦ってきたのだ。
そして私が感激したのは、大会運営側で働いているひとりの女性、ソルトレイクシティ五輪に出場していたトリシア・バーンズを発見したこと。アメリカのナショナルチームで活躍していた彼女は、選手時代の私のことを覚えていてくれた。こうして今も現場にいる私たちの再会がとても嬉しかった。
 

WithTricia

 
ハイレベルな小さな子供たちからアクティブな高齢者スノーボーダーの姿は、今後の日本にきっと夢と希望を与えるだろう。こうした形のコンテストが存在することが、スノーボードがアメリカの文化として根づいているひとつの理由なのかもしれない。
また家族でこの場に立ちたいという目標ができた。そして、日本に伝えたいと思える素晴らしいコンテストだった。
 
おわり

text: Yukie Ueda

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