BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

フリースタイルスノーボーディングの真意

2017.06.09

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ビッグキッカーで繰り出される縦4回転と横5回転の融合スピンであるクワッドコーク1800や、クリスチャン・ハラーがスパインで放った11.3mの巨大バックサイドエアなど、常軌を逸した大技が話題を集める昨今ではあるが、そもそもスノーボードのトリックはスケートボードからインスパイアを受けて生まれたものだ。
 
時は80年代後半から90年代初頭にかけて。それまではハーフパイプやアルペンレースなどのコンテストに主軸が置かれるシーンだったのだが、アメリカ西海岸を中心にスケートボードの影響を強く受けながらフリースタイルマインドを構築していくことになる。テリー・キッドウェルや、先日47歳という若さで他界したノア・サラスネックらが先達だろう。しかし、世に広めたライダーと言えば彼で間違いない。今なお現役を貫き、山滑りにフリースタイルを融合させたライディングに傾倒している男、ブライアン・イグチだ。
 
当コラムでは何度も綴っているが、ビデオ『ROADKILL』(93年)や『R.P.M.』(94年)がフリースタイルスノーボーディングの礎を築き上げた。スケートライクな滑りと出で立ちが雪上で化学反応を起こし、ニュースクールと称される一大ムーブメントに発展。スポーツというよりもファッション感覚でスノーボードに取り組む若者が世界中で急増した。
 
なぜ、このような現象は起こったのだろうか。イグチ本人に当時について取材した記事を制作した記憶が蘇ってきたので、改めて振り返ってみることにする。
 
彼はスケートボードとともに育ってきた背景があるため、当時、自らができるスケートのあらゆるトリックを雪上で試していた。常にスケートスタイルを追求しながら、トリックのレパートリーを増やすことを考えていたのだ。そのため、誰かとセッションするたびに新しいトリックが生み出され、それは同時に、スノーボードという世界観の広がりを意味していた。
 
また、ニュートリックを映像として残す際に重要視していることがあった。それは、新しいトリックを楽しみながら開発すること、常に進化した形で披露すること、そして、それらがカッコいいこと。
 
後に、これらの映像にビデオテープが擦り切れるほど釘づけとなる僕ら一般スノーボーダーたちは、足がボードに固定されていることで、スケートボードよりもイージーにそのカッコいい動きを見よう見まねでトライすることができた。それが爆発的ヒットにつながった一因でもあるのだが、イグチはこうも語っている。
 
「例えばスケートやサーフィンでは、コンスタントに足を置く位置を移動させてバランスを保ったり、パワーを最大限に引き出すことでボードをコントロールできるよね? でも、スノーボードは足を固定されていることが、強みでもあり弱みでもある。オレにとっては乗りこなすことに苦労した最大の理由だったよ。ただ、スケートのようにキックフリップができないからこそ、スノーボードはスピンやフリップというトリックに重きが置かれて進化していったんだと思う」
 
この時代から20年以上の月日が流れ、イグチが言うように冒頭で述べたような進化をたどっていったスノーボード。ただし、先人の言葉を借りれば、回転数や高さだけを追い求めてはならない。常軌を逸したトリックであっても、やはりカッコよくなければ成立しないのだ。反対に、ハードなトリックではなくてもカッコよさを追求することで、トリックは成立するとも言い換えられる。
 
これが、フリースタイルスノーボーディングの真意である。

rider: Bryan Iguchi photo: Jon Foster

 
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.81」(2016年6月1日公開)を加筆修正した内容です

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