BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

本格シーズンに向けた心構え

2016.11.17

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某ドメスティックブランドのライダーとして活動していた時代、12月になると翌シーズンモデルのボードテストがひとつの仕事だった。固いバーンでないとボードの特性が判断できないため、晴天率が高く放射冷却によりアイシーなゲレンデを有する長野・蓼科エリアで開催されることが多かった。
 
ちょうど初滑りと重なることもあり、エッジングの感覚や重心位置などを確認しながら丁寧に滑り、各ボードの特徴を自分なりに把握。1モデルに対して数パターンのボードが用意されているので、ひとりで繰り返し滑っていた。リフト乗車中、同じくテストをしているチームメイトのライディングが目に飛び込んでくるわけだが、やたらと転倒しているプロスノーボーダーがいた。十数年前の話なので記憶が曖昧ではあるが、ハイスピードでもなく地形を攻めての結果ではなく、低速かつフラットバーンなのに。まだ駆け出しだった彼のことをあまり知らなかったので、「本当にプロなのか?」と疑った眼差しで見ていたのも事実だ。
 
数パターンある各モデルの試乗を終えると、都度ミーティング。ライダーひとり一人のフィードバックを求められるのだが、その転倒していたプロスノーボーダーはかなり的確な回答を発していたように記憶している。僕はといえば、この時代からオフシーズンを利用して編集者として働いていたこともあり言葉で巧みにごまかすも、彼ほど有益な発言はできていなかった。
 
そのときは気づけなかったのだが、このプロスノーボーダーはボードの特性を最大限に活かすようにフレックスやトーションをギリギリまで使って滑っていたため、転倒を繰り返していたのだ。かたや僕は、初滑りだからこそ丁寧に滑ろうという意識が強く働いて、ボードの限界値を引き出すことができていなかった。だからフィードバックも中途半端だったのだろう。
 
これはボードテストに限った話ではない。ここに、上達するための大きなヒントが隠されているのだ。
 
いよいよ本格シーズンが到来する。初滑りの人はもちろん、室内ゲレンデで滑り込んでいた人やジャンプ施設で練習していた人も含め、フリーライディングという視点から見ると、まずは足慣らしということになるだろう。僕のようにエッジングの感覚を思い出しながら丁寧に滑ることも大切だが、このプロスノーボーダーのように滑ったほうが確実に上手くなる。なぜなら、重心移動の限界値などが把握できるとともに、愛用するボードの特性を十二分に理解できるから。前述したように低速で転倒していたわけだから、彼は丁寧に滑りながらも“攻めていた”ということだ。プロながら転倒を恥じることなく滑る姿勢に気づかされたとき、見栄ばかり張って転ばないように滑っていた自分を恥じた。
 
ちなみに、このプロスノーボーダーの名は小西隆文。後に、かつて東京ドームで開催されていたX-TRAIL JAMに出場するなどフリースタイラーとして華々しい活躍をみせ、近年はカナダ・ウィスラーなどのバックカントリーにおいて和製ニコラス・ミューラーを彷彿とさせるスムースな滑りで多くのスノーボードファンを魅了している。彼が培ってきたこれらのライディングスキルは、ゲレンデ内での転倒の積み重ねでもあるのかもしれない。

rider: Takafumi Konishi photo: Akira Onozuka

 
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.57」(2015年12月2日公開)を加筆修正した内容です

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