BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

王者から絶対王者へ

2016.09.23

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マスメディアが冬季オリンピックを基準にスノーボード競技を取り上げているとすれば、もっとも注目に値しなかった昨シーズン。だが、一昨シーズンに引き続き、角野友基はお茶の間を賑わせた。2月下旬に開催されたX GAMESオスロ大会でのビッグエア優勝を受け、その前週に行われたAIR+STYLEロサンゼルス大会での2連覇も再び報じられるなど、2018年のピョンチャン五輪から正式種目となるビッグエア競技での活躍が大きな注目を集めたと言える。
 
このように華やかな活躍が目立つわけだが、実のところ角野は苦しめられたシーズンを過ごしていた。コンテストシーズンの開幕を告げる風物詩と化したビッグエア大会、AIR+STYLE北京大会では4位ながらもベストトリック賞を獲得し、まずまずのスタートを切った。だが、続くDEW TOURのスロープスタイル種目では10位、LAAX OPENのスロープスタイル種目では11位と苦戦を強いられることに。角野が照準を合わせていた大舞台であるX GAMESアスペン大会は、ビッグエア種目で3位に食い込むも、スロープスタイル種目では12名の招待ライダーで最下位に甘んじた。その直後に行われたAIR+STYLEインスブルック大会では、得意のビッグエアにも関わらず予選で涙を呑むことに。ビッグエア種目での予選落ちは、おそらく2012年以来のことだ。
 
一昨シーズン、初開催となったAIR+STYLEロサンゼルス大会で世界初となるスイッチバックサイド・トリプルコーク1620を決めて金メダルを獲得し、その直後に行われたBURTON US OPENでは、またもや世界初となるバック・トゥ・バック(バックサイドスピン→スイッチバックサイドスピンの順)でバックサイド・トリプルコーク1620を決めて優勝。彼が生業とする2種目における世界最高峰の舞台での頂点は、正真正銘の王者を意味した。
 
そして迎えた昨シーズン。スノーボード競技の世界においては、日本人ライダーが事実上の世界トップに君臨した実績はこれまでない。プレッシャーが大きかったのか、たかをくくって臨んだのか、はたまた周囲のレベルが急速に上がったのか……。“挑戦”する立場から“応戦”する立ち位置に変わったことで、大会を“楽しむ”ことよりも、王者として“勝つ”ことに重きを置いた結果だったのかもしれない。
 
角野は悩みに悩み抜いた。「もっと(大会を)楽しめる方法があるんじゃないかって……それにやっとたどり着いた」とは本人談だが、プロスノーボーダーとして勝つことはもちろん、スノーボーディングを楽しむという原点に立ち返ることができた。それ以降の結果については、冒頭で述べたとおり。
 
ビッグエア種目では最大のライバル、カナダのマックス・パロットを封じての連勝だっただけに、王者と呼ぶにふさわしい結果を残すことができた。だが、スロープスタイル種目の常勝ライダーであるカナダのマーク・マクモリスがケガにより戦線離脱していたこと、また、アメリカの若手ライダーたちが台頭していることも含め、その中で納得のいく滑りができなかった。
 
あることを思い出した。2月中旬、神奈川・横浜に位置するパシフィコ横浜で毎年行われているスノーボード大型展示会での出来事。広い会場を歩いていると、角野に遭遇した。そのとき、昨シーズンの大会について話が展開すると、目つきが一変していきり立っているように感じた。ちょうど、AIR+STYLEインスブルック大会後で、翌日からロサンゼルス大会のため移動するタイミング。今振り返ってみると、彼がスノーボードと改めて本気で向き合い、自分なりの答えを模索している最中だったのだ。
 
その後、3月中旬のJASA(日本アクションスポーツ連盟)AWARDSでベスト・スノーボーダー・オブ・ザ・イヤーに輝いた角野のプレゼンターを務めるため再会すると、そこにはトゲが抜けたように柔らかい彼がいた。ビッグエア種目は大会数が多いため、シーズン中は毎週のように世界中を転戦しなければならない。毎週末プレッシャーと格闘し、平日には想像を絶する移動を強いられ、その合間を縫って高難度トリックの練習に明け暮れる壮絶なシーズン。そんな激動の競技生活から解放され、いちスノーボーダーとして原点に立ち返って結果を残しただけに、本来の自分を取り戻すことができたのだろう。
 
角野は大会転戦を終えた直後、今季を見据えて「挑む」という言葉を口にしていた。スロープスタイル種目では王者から陥落したが、挑戦者として再出発する決意が表れている。滑走力だけでなく強靭な精神力を持ちあわせて再び王者を奪還したとき、そこに絶対王者が誕生するのかもしれない。
 
彼の歩みは次なるステージへと昇華した。日本スノーボード史上初のオリンピック金メダル、そして2冠という、フリースタイルスノーボード界における前人未到の大偉業に向けて。

photo: Mats Grimsæth / Red Bull Content Pool

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